オホーツクふらふら行(13) 紋別へ。

前掲の宮脇俊三著『旅は自由席』の中に、「0番線の話」という一章がある。
0番線とはどういうものかということも記されているが、ここでの本旨とは離れるので触れない。が、宮脇俊三がこの短い文章を「小説新潮」1989年1月号に書いたころには、全国に0番線が約40あったそうだ。
それに続け、宮脇俊三はこう記す。少し長くなるが・・・
<私がもっとも好きだったのは網走の0番線で、ここには湧網線が発着していた。湧網線はオホーツク海の近くを走る線で、冬に乗れば結氷した湖沼や流氷を車窓から眺めることができた。・・・・・。・・・・。渺々として荘厳にして非情に広がる流氷の景観は、さらに忘れることができない。それは、あの氷の海のなかに身を沈めたいとの死への誘惑を感じさせるほどであった。湧網線は昭和62年3月に廃止になり、網走駅の0番線も消滅した>、と。
湧網線は、網走から中湧別までの約90キロ。その先は、約25、6キロ先の紋別を通り名寄へ到る名寄本線であった。
この名寄本線も今はない。北海道の鉄道は、ホントに次々となくなっていく。
今、網走から紋別へは、ひがし北海道エクスプレスバスが走っている。文字通りのエクスプレスバス、途中休憩を1回のみ挟みノンストップで網走から紋別へ突っ走る。1日1往復のみであるが。
完全予約制で、代金3900円は前もって振りこむ。
紋別へのエクスプレスバス、予約が少ない場合はマイクロバスになることも、ということであった。
紋別へのエクスプレスバス、朝8時50分に網走駅前を出発する。5分前に駅前へ行くが、誰もいない。その内、バスでもなく、マイクロバスでもなく、タクシーが現れた。運転手が言う二は、今日の客は私一人だと言う。で、タクシーに。
網走から紋別まで、約100キロ。料金僅か3900円の私一人を乗せて、タクシーは走りだした。
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道は除雪はされているが、表面は凍結している。
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出発してすぐに網走湖の北側を走る。
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窓外の風景が飛んでいく。
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すぐに能取湖の南側を進む。
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路面は凍結しているが、飛ばす。
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運転手は、「今日はタイヤが案外道を掴んでいる」、と語る。
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標識があった。
湧別まで53キロ、紋別まで77キロ、稚内までは294キロ。
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北海道だ。
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サロマ湖の南側に沿って走っている。
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雪の中に木。
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サロマ湖は大きな湖である。
琵琶湖、霞ケ浦に次いで日本で3番目に大きな湖である。オホーツク海と接する汽水湖である。


少し横道に逸れる。
今ではあまり知られていなくなったであろう作家・藤枝静男に、『欣求浄土』(北海道文学全集 第19巻 凝視と彷徨 立風書房 昭和56年刊所載)という作品がある。
不可思議な作品なんだ。
章という主人公が若い友人と点けっぱなしのテレビを見ていると、・・・・・、急にサンフランシスコのヒッピー族の紹介がはじまる。<これは体制の生み出した瞬間の善だ、と章は思った。・・・>。これが序章と言えば序章。
ついで、<この若い友人が自分の感心したというピンク映画を見ることを勧めてくれた>、と藤枝静男の『欣求浄土』。
主人公の章、その「性の放浪」という映画を見に行く。あちこちで男女が性交している。次から次へと、次々に。2段組みではあるが、わずか数ページの間に「性交」という即物的な、また生な言葉が次から次へと出てくる小説は他に知らない。これが「序破急」の破と言えば「破」。
次いで、章は北海道へ行く。網走行きの急行で遠軽で降り、車で湧別の町に入りオホーツク海とサロマ湖とをひとつの視野に眺められる所まで行く。三番小屋と言われる所まで。
サロマ湖のオホーツク側、オホーツク海とサロマ湖の間に切れ込みがあり、オホーツクの海水がサロマ湖に流れこむ所である。章は、その場でさまざまな思いを抱く。鉛色の海に。
端折りに端折り、巻末のみ記す。
<「逃げて行く」、と彼は思った。気のせいか、自分の意志で解放されて行くようにも思うた。嘘でもその方が気持よかった>。序破急の「急」である。
短編であるが、不思議な物語りである。ゴダールの『イメージの本』を思わせる。


紋別に向け走る車に戻ろう。
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防雪柵である。ちょくちょく出てくる。
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左右の景色、味がある。
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小さな集落があった。
小林商店と記されている。医薬品、化粧品、衣料品、文房具、小間物、と。小林商店じゃなく、小林百貨店、デパートだ。
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サロマ湖は大きい。
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どんどん進む。
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網走を出て1時間ばかり経ったころ、車はここへ入る。
運転手は、「10分ほど休憩します」、と言う。
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小さなショベルカーが建物の前の除雪をしていた。
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入口にはこう書かれている。
中へ入る。店の人がひとりいた。客はひとりもいなかった。
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10分後、再び走り出す。凍結した路面をぶっ飛ばす。
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窓外には幻想的な光景が流れる。
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雪が舞ってきたようだ。
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突然、右、紋別という標識が現れた。
右折してすぐ、砕氷船が出るガリンコ・ステーションやオホーツクタワーのある紋別の海洋交流館へ着いた。
事前の案内では、11時半着ということであったが、10時半には着いていた。凍結した約100キロの道を実質1時間半でぶっ飛ばした。たとえスリップしても乗っているのはじじいがひとり、運転手も気軽であったのであろう。


この1か月、新型コロナウイルスの状況は劇的に変わった。
この3週間だとさらに。2週間前からだと、べらぼうな変化。1週間前からだと、日々激変である。
政府の専門家会議、専門家の皆さんは、医療崩壊が起きると警鐘を鳴らしている。東京や大阪といった大都市の首長は、政府は緊急事態宣言を出してくれ、と言っている。
しかし、安倍晋三や菅義偉は、まだそこまでは至っていない、と語る。そして、一所帯にマスク2枚を送るとのこと。何度も洗えるマスクらしいが、安倍晋三や菅義偉のこのマスク発言には笑ってしまった。
今となっては一刻も早く緊急事態宣言と、それと一体の経済対策を出すべきであろう。
仕事を失った人や経済弱者に対して。10万でも20万でも、さしあたり。国民一律でない場合は線引きが難しい、時間がかかるなんて言ってるが、ざっくりでいいから早くやるべきであろう。
安倍晋三、検討しているとの言葉だけで、具体策はマスク2枚程度しか出てこない。英米独仏の対応に較べ、何やってんだという状態。
日本は先進国ではなかったのだ、と改めて思う。