北泰紀行(5) ゾウさん。

チェンマイ近郊に、ゾウさんを見に行った。ゾウは、大きな動物だ。
しかし、とても可愛い。だから、つい、”ゾウさん”と呼びたくなってしまう。タイ語では、チャン(Chang)と言うそうだ。その場合は、”チャンさん”でもいいが、”チャンちゃん”と言う方が、可愛いかな。

ここ、正式な名は、「メーサー・エレファント・キャンプ」という。
ゲートの両側には、国王と王妃の写真がある。タイでは、これは、お決まりだ。
入場チケットの裏には、こう書いてある。
<メーサー・エレファント・キャンプは、1976年、C.カルマピジット氏によって5頭の象で設立された。優れた健康管理と繁殖技術によって、今では、70頭以上の高い芸術的才能を持つ象を有するようになった。ここは、ISO9001を取得した世界初のキャンプであり、国家からの表彰も受けている。云々>、といったことが。
たしかに、大した象たち、オット、ゾウさんたちが、いっぱいいた。

入ってすぐのところに、このような看板があった。このキャンプにいるゾウさんたちのプロフィールだ。
写りが悪いが、今いるゾウさんの写真、名前、性別、生年、それに、各々の象使いの写真と名前が出ている。
1番から71番まで。年齢順に。たしか、1番のゾウさんは、1960年前後の生れだった、と思う。だから、71番目のゾウさんは、小僧のゾウさんだ。因みに、象の寿命は、人間と似たようなものらしい。

少し歩いて行くと、いたいた。

近寄ると、やはりデカイ。
しかし、インドの象に較べると、同じアジア象とはいっても、少し小柄なような気がする。背中に乗せている台も、2人乗りだし。

まず、Sと2人で乗ってみる。右手の台の上から乗る。
私は、今までに2度、象に乗ったことがある。いずれも、インドで。インドでは、4人乗りだった。乗った台の上から下を見ると、えらく高い感じがしたが、タイの象の上からは、さほど高いという感じは受けなかった。

背中に2人乗りの台をつけた象が、このように連なって山道を進む。象使いは、頭の上に跨っている。

Sと私が乗ったゾウさん、やや身体が小さく、このような道ならいいが、少し傾斜があるところや、ヌカルンでいるところでは、なかなか前へ進まない。象使いの男は、耳のうしろを蹴っとばす。何度も何度も。
ついには、後ろからきたゾウさんに追いつかれ、2組ばかりを先にやり、最後には、ショートカットをして戻ってきた。何だか、このゾウさんに気の毒な感じがした。

降りた後撮った私たちが乗ったゾウさん、この象だ。ナンバーは、66番となっている。まだ若いんだ。
象使いの男に何度も蹴っとばされ、懸命になって滑る山道を下りたこのゾウさん、可哀そうではある。気の毒だ。しかし、おそらく、毎日これをしているのであろう。そのうち、もう少しガタイも大きくなり、追い越されもせず、ショートカットもしなくていい象になるであろう。”ガンバレ、66番”、だ。

日に3回、ゾウさんのショーがある。
10数頭のゾウさん、前のゾウさんのシッポを、鼻でつかんで登場する。

初めは、象使いが、飛び降りたり、飛び乗ったり、というところから。

一斉にゴロンと横になったり。

立ちあがって走ったり、後ろ脚で立ったり。

丸太積みをしたり。
その他、玉入れをしたり、サッカーをしたり、ハーモニカを吹いたり、お客の女の子と風船割り競争をしたり、とゾウさんのショー、1時間ばかり続く。ゾウさんは、とても頭がいいんだ、ということが、よく解かる。

中でも、一番面白かったのは、お絵描きだった。
鼻にブラシを挟んで、絵を描く。色を変える時には、象使いがブラシに絵の具をつける。いかに頭がよくて絵心があるといっても、そこまではできない。しかし、どの色はどこに塗る、ということは、ゾウさんたち、憶えているんだ。大したものだ。

最後に、ゾウさんたち、一斉に観客の方にやってくる。
すぐ側でバナナを売っている。それを与えると、先ほど象使いの男にしたのと同じく、鼻で掴んだ帽子を被せてくれる。さらに、鼻を観客の身体に巻きつけてくれたりもする。観客への、ゾウさんたちのお礼であろう。

帰り道には、何と、さっきゾウさんたちが描いた絵が売られていた。
たしか、絵描きのゾウさんは、6〜7頭いたが、残っているのは、2点だけだった。残っていたもの、右側の絵が、2000バーツ(約6600円)、左側のものは、6000バーツ(約2万円)の値がついていた。

売店には、今までにゾウさんたちが描いた絵が、多く掛けられていたが、この絵には驚いた。
「これ、ホントにゾウさんが描いたの?」、と売店の人に聞くと、「そうだ」、という。そう言うのだから、そうであろう。もしかしたら、何頭かのゾウさんたちによる、共作かもしれないな。それは、考えられる。
因みに、つけられていた値札には、30万バーツ(約100万円)、とあった。別格の巨匠だ。

しかし、多くは、このような作品が多かった。2〜5000バーツ程度の。
売店には、ゾウさんのウンチから作った紙製品があった。これが、なかなか美しい。小さなものを幾つか求めた。
製品の後ろに、ゾウさんからの小さな挨拶状がついている。これが、シャレている。こう書いてあるんだ。
「”マイ・ペーパー” 私は、タイの北部、チェンマイで、多くの友だちと住んでおります。毎日、いろんな植物をお腹いっぱい食べています。だから、当然、生の繊維を産み出すテクニックも備えているのです。これらの繊維は、洗われ、発酵させ、煮られ、混ぜられ、といった処理を施しております。
そして、最後には、キレイな水につけて、木の板に乗せて、十分に乾燥させております。それが、あなたが今、手にお持ちの”マイ・ペーパー(私の紙)”です。ありがとうございました。ゾウより」、というシャレた言葉が。


メーサー・エレファント・キャンプのゾウさんたち、少し気の毒だったな、というゾウさんもいたが、力自慢もいたし、サッカー選手もいたし、絵描きもいたし、シャレ者のゾウさんもいた。