気仙沼の鯉のぼり。

ここ数年、新象展へ行く楽しみは鯉のぼりプロジェクトに参加することにある。
犬飼三千子が退会して以来、「文字はアートだ」の安藤イクオさんが案内状を送ってくれる。で、安藤イクオ作品と軍手作家の相本みちる作品をまず見た後は鯉のぼりプロジェクトに参加する。
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半月ほど前の第62回新象展。
幾つかこれはってものがあるが、どんどん進む。
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鯉のぼりプロジェクトをやっている。
が、さらにその先へ。
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第8室に入る。
左の方に安藤さんの作品が、右の方には相本さんの作品が目に入る。
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安藤イクオ≪文字はアートだ≫。
   吹くからに秋の草木のしをるれば
     むべ山風をあらしといふらむ   文屋康秀
秋風の吹くさまを、ただそのまま詠んだものじゃないか、とも思うが、著名な歌なんだ。作者の文屋康秀、在原業平や小野小町、僧正遍昭といったビッグネームと並ぶ六歌仙のひとり。
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安藤さんの今年の出品作、例年の作品とどこか感じが違う。
洗練された感じを受ける。
書道教室の先生であり、看板屋でもある安藤さん、この作品の顔料は看板を描く絵具ではないのかもしれない。いつか、看板屋は体力のいる仕事でだんだんきつくなってきた、と言っていたので。いままでのどうだって感じが薄められている。色づかいも上品。
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相本みちる≪呆気羅漢さん≫。
軍手作家・相本みちる、今年は13体の羅漢さまを出品した。
羅漢、修行を積んだ高位の仏さまである。それを相本みちるは「呆気羅漢」、「あっけらかん」と言ってのけた。
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近寄る。
軍手の羅漢さまへ。味がある。
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第7室の鯉のぼりプロジェクトの場に戻る。
実は、昨年は鯉のぼりプロジェクトに参加できなかった。私が行った時には既に閉まっていた。鯉のぼりプロジェクト、4時までなんだ。
で、今年は早めに行った。1時間の余裕を持って。
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鯉のぼり、会場で泳いでいる。
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こういう貼り紙がある。
この鯉のぼりの催し、正式には「メッセージ鯉のぼり」というものらしい。新象展ではそれに協力するという形で参加しているらしい。
始まりは2011年3月11日のあの東日本大震災である。3枚目の紙には、「ただの鯉のぼりではない」という文言も見てとれる。
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このような貼り紙も。
東京都美術館での。
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大阪市立美術館での。
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このような貼り紙もある。
「寄付金の流れ」といったもの。
この「メッセージ鯉のぼり」の寄付金は、主に気仙沼のあちこちに寄付されている。
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私も鯉のぼりを描く。
が、右隣の人を見ると、その人は点描で鯉のぼりを描いている。
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その隣の人はこのように。
皆さん、一切れだ。
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私は迷っていた。
最初の年は鱗一枚を描いた。その翌年には頭と切り身一切れを描いた。塩鮭のようであったが。
そして昨年は、半身を描こうと思っていた。が、時間が過ぎていて描くことはできなかった。
そして、今年である。
昨年叶わなかった半身を描こうか、それとも一匹まるごと描こうか、と。
が、このところの身体の具合などを勘案し、一匹まるごととした。今年で終わりということも、と考えた。
まず最初に、八戸、久慈、宮古、釜石、大船渡、気仙沼、という文字を描き入れた。2、3年前4、5日かけて巡った三陸沿岸の地である。
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左の方で描いている人がやけに上手い。
「あなた、上手いですね」、と言った。30前後の女性であった。「いや、普段は具象を描いているので、このような抽象のようなものは難しいんです」、という言葉が返ってきた。
訊けば、美術大学を出た後、中学だったか高校だったかで美術の教師をしているそうだ。
「そこに私の作品があります」、と言う。
そちらへ移る。
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その女性・長峰歩の作品。
左は、≪潮騒≫、右は、≪幕開け≫。
素晴らしい作品である。どこか王道を行く作品である。古き時代を引きずっていると言えば、そうではあるが。
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クサカベ賞を受けている。会員推挙ともなっている。
趣き深い作品である。
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と、「私の作品もすぐそこにあるのです」、と言う男がいた。
そちらへ移る。
川村朋之≪真実~繋がる者たち~≫。
作家の川村朋之、手を差し伸べ「繋がる」ということを語る。
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繋がるって、いろいろなものが繋がっている。
パパ、ママと子供とか。ここでは三角形の下に天使がいる。それがあちこち繋がっている、と作家の川村朋之は語る。
作家が語るには、「ヒーリングアートなんです」、とのこと。癒しの要素が数多く描かれているそうだ。絵を描くばかりでなく、ヒーリングに関することも生業にしている模様。
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そんなことをしている内に、時間は進む。鯉のぼりプロジェクトが閉まる4時が近くなっていく。
4時まであと5分しかない。黄色と青のみを使い、残りの半身をガシガシと描いていく。
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「流山子」とサインを入れる。
と、先ほどからずっと私の動きについていた私と同年代の男が、「それは何と書いたのだ。漢字なのか?」、と訊いてくる。「そうだ」、と応える。
新象展の関係者であるらしいその男、「あなたのそれは水墨画のようだな」、と言う。「水墨、どこが」ってと思う。
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4時となった。
鯉のぼりプロジェクトの係の人たちは集計をしている。私の鯉のぼりが最後であった。
このイワシかサンマのような鯉のぼり、来年5月、気仙沼の空に泳ぐのであろう。
私が見ることができるか否か不明であるが。