鵞鳥湖の夜。

『菊とギロチン』の瀬々啓久は、「アントニオーニとタランティーノと増村保造が一気に駆けめぐる」と言い、『スパイの妻』の黒沢清は、「ベルトリッチと清順とそしてゴダールまでもが混在した実に挑戦的な・・・」と語っている。こんなにエッジの立った古今東西の巨匠を思わせるなんて。
こりゃ見ざるを得ない。チャイニーズ・フィルム・ノワールである。
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『鵞鳥湖の夜』、監督:ディアオ・イーナン。中国とフランスの合作。
昨年、2019年の第72回カンヌ国際映画祭では、韓国のポン・ジュノの『パラサイト 半地下の家族』がパルムドールを取ったが、その折り、ディアオ・イーナンの本作もカンヌに衝撃を与えた。
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中国という国、驚くべきスピードで変化し続けているが、それに伴い社会には大きなひずみを生みだしている。経済格差も広がるばかり。
発展に取り残された人たちがいる。社会の底辺を漂う。『鵞鳥湖の夜』に出てくるギャングや娼婦も。
男は闇夜を彷徨う。
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中国南部のとある果ての地。湖のほとり、ネオンと銃声と女の街。
女も闇夜を彷徨う。
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話としてはこういうこと。
5年のお勤めを終えたムショ帰りのチョウ・ザーノン、元の窃盗団に戻る。縄張り争いで猫目・猫耳兄弟と対立する。チョウ・ザーノン、猫目・猫耳兄弟の卑劣な攻撃を受け胸を撃ち抜かれる。チョウの舎弟は猫目・猫耳兄弟にピアノ線で首を吹っ飛ばされる。
チョウ・ザーノン、誤って警官を撃ち殺してしまい追われる身となる。30万元(400万円強)の報奨金をつけられて。チョウ、カミさんに密告させ報奨金を女房子供に残そうと考える。
しかし、約束の場にはカミさんは現れず、ショートヘアの謎の女・アイアイが現れる。アイアイ、鵞鳥湖の水浴嬢、つまり娼婦である。
他に報奨金を狙うヤクザやチョウを追う警察やの物語があるが、それはそれ。
『鵞鳥湖の夜』の凄さはその映像美、さらに「なんじゃこれ?」っていうものが挟まれる。
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チョウ・ザーノンに扮するのは、フー・ゴー。
全編にわたり夜の場面が多い。暗闇、雨も多い。
じっとりとした中国南部の「城中村」と呼ばれる、急激な都市化の中で取り残された地域。暗闇にネオンの原色が。
タランティーノを思わせる映像がある。清順を思わせる画像がある。
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謎の女アイアイに扮するのは、グイ・ルンメイ。ディアオ・イーナンのファム・ファタール。
夜、路上で多くの人が古臭いディスコダンスを踊る映像が流れる。発光する靴底のスニーカーで。アイアイも加わる。どのような必然があるのか。よく解らない。
また、突然、トラやフクロウが現れる。動物園のトラやフクロウが。清順でありゴダールであるので、そうかそうきたかと思い、感じることが必要だ。
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チョウ・ザーノン、最後にはリウ隊長に率いられる警察の捜査隊に撃ち殺される。
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報奨金を手にしたアイアイは、チョウのカミさんと会う。自らの分け前を取り、残りをチョウのカミさんに渡すのか。

時代設定は2012年7月である。
ディアオ・イーナン、現代中国のザラついた一側面を切り取った。