博士と狂人。

OED(オックスフォード英語大辞典)の誕生秘話。
原作は、1998年に発表されたサイモン・ウィンチェスターのノンフィクション。まったく異なる背景を持つ二人の天才の物語。
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『博士と狂人』、監督:P.B.シェムラン。アメリカ映画。
原作発表直後の20年前からメル・ギブソンが映画化権を取り、途中紆余曲折があり、実に20年の歳月を費やし完成させたものだそうだ。
物語は19世紀後半から始まる。
博士というのは、メル・ギブソンが扮する市井の学者・マレー。
狂人というのは、殺人事件を起こし精神病院に収監されている元軍医のマイナー。ショーン・ペンが扮する。
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貧しい家に生まれたマレー、学位も学歴もない。叩き上げの学者。階級社会のイギリスではさまざまな波を被る。オックスフォード大学のお歴々から「学校は?」と訊かれ、「14の時から仕事をしているので学校へなど行っていません」と応える。
しかし、マレーは大英帝国の威信をかけた世界最高の辞書・OEDの編纂の責任者に選ばれる。何しろ、すべて独学のマレー、15、6か国語の言語に通じている。古語も含めて。
扮するメル・ギブソン、風格がある。
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片やこちらは精神病院に収監されているマイナー。マレーと異なりエリート。元アメリカの軍医であり、博士号も持っている。
しかし、マイナーは南北戦争で心を病み、人に殺されるという観念に陥り、逆に誤って人を殺してしまう。精神病ということで刑の執行は免れたものの、イギリスへ逃げてきている。
マイナーにはショーン・ペンが扮する。狂気が伝わる。
この二人が結びつく。
メル・ギブソンとショーン・ペン、この二人のアカデミー賞俳優の対決、いや支えあい、見ものである。
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オックスフォードでの叩き上げの学者・マレー、シェークスピア以降の英語のすべて、その用いられ方、引用、何でもかんでも網羅する、と語る。
そのためには、ボランティアの協力者が必要だ、と。そのボランティアの中で飛びぬけて凄い情報を送ってくる男がいた。精神病院に収監されているマイナーである。この男もけた外れの言語能力を持っている。マレー、マイナーを頼る。
辞書の編纂といえば、7年前、三浦しおん原作の『舟を編む』が石井裕也によって映画化された。『大渡海』という中規模の辞書を作るという話であった。松田龍平がくそ真面目な編纂者に扮していた。あれはあれで面白かったが、『OED』となるとくそ真面目な若い男だけじゃすまない。
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『博士と狂人』、サイドストーリーも面白い。
元アメリカ軍医のマイナーにご亭主を殺されたイライザ。
マイナーから看守を通じ、米軍の年金が出るのでそれをすべて貴女に贈りたい、という申し出を断る。
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が、何度かマイナーと会ううちに感情が変わってくる。イライザ、マイナーから言葉も教えてもらうようになる(19世紀後半でもイギリスには読み書きのできない人がいた模様)。
それどころか、互いに惹かれあうようになっていく。このところ、ホントかよと思ってしまうが、史実に沿っているのかどうか、原作のドキュメンタリーを読んでいない私には分からない。
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(右)マレーのカミさんは「やるからには、信念を持ってやりとげて」と語る。
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マレー、英語に関するさまざまな事柄を書いた紙片をあちこちに貼っている。
今日、朝日新聞一面の小さなコラム・「折々のことば」が2000回となった。そのことにつき筆者の哲学者・鷲尾清一、今日の中面で「気になったことは、何時でも何処でもすぐに書き留める」、と語っている。辞書とコラムとの違いはあるが、言葉を扱うことにおいては同じこと、ということなんだろう。
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マレー、初めのうちはどのような言葉にもすぐ対応できるマイナーが、どういう人物であるのかを知らなかった。その驚くべき語学の才を持っている男のことを。
マイナーがいかなる男かを知ったマレー、精神病院へマイナーを訪ねる。
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「A」だけであったろうか、第一巻ができた時にもマレーはマイナーを訪ね本を手渡す。
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『OED』の編纂に精神病院に収監されている狂人が関わっているということがオックスフォードの中で問題視されるようになる。
マレーはマイナーを擁護するが厳しい状況となる。あとは政治権力で、となる。
マイナー、若い内相に直談判する。若い内相ってウィンストン・チャーチルである。
調べてみるとウィンストン・チャーチル、1910年2月から翌11年10月まで内相を務めている。
南北戦争でどうこうと言っていた人が、ウィンストン・チャーチルに繋がっていることに改めて驚く。
19世紀後半や20世紀、ついこの間なのか、