モローのサロメ。

一昨日、昨日と出かけており、ブログも休みとした。
その前日の「クリムト」でひとつ記し忘れた。ナレーター、役者のこと。
クリムト展の音声ガイドは稲垣吾郎であった。一方、映画「クリムト」のナレーターは柄本佑が務めていた。稲垣吾郎、単なる音声ガイドのナレーターとしてではなく、クリムト展のスペシャルサポーターとしてウィーンのベルヴェデーレ宮殿のギャラリーも訪れ、満を持してのナレーションであった。が、面白くない。クソ真面目、硬い。花も実もない。翻ってドキュメンタリー映画「クリムト」のナレーター・柄本佑、稲垣吾郎よりひと回りも年下だが、役者としての土台が違う。味のあるものであった。安藤サクラの連れあいであること、ダテじゃない。
しかし、この二つの催し、とても面白い。
東京都美術館での「クリムト展」は今月10日まで。あと1週間ある。映画「クリムト」は今月、来月、全国公開が広がる。さほど多くの広がりではないが。それでも、共におすすめ。
それはそれとし・・・


今日、日本政府は韓国への輸出規制強化策の第一弾を発動した。半導体などの材料3品目が対象。韓国経済への打撃は大きいそうだ。アメリカの主要メディアは、日本のトランプ化現象と言っているらしい。元徴用工問題の意趣返し、と。韓国は国家間の約束を守らない国だから、というのが日本政府の論理。当然、韓国は反発している。
米中貿易摩擦の小型化じゃないかってのが、気持ちよくないな。
が、それもそれとし・・・


蜘蛛のお化けのような彫刻が世界に10体ある。大きな蜘蛛が10匹、と言っていい。アメリカの作家、ルイーズ・ブルジョアの作品≪Maman≫。
六本木ヒルズの前にも1匹いる。以前記したことがあるが、ロンドンのテート・モダンの前にもいる。ソウルのサムスン美術館の前にもいる。2匹も。このことも以前に記したことがあると思う。私が観たのは、この4匹。
今、何を記そうとしているかと言えば、ソウルのサムスン美術館の前に「Maman」が2匹いる、ということことである。
今日、日本政府が発動した輸出規制強化策の最大の対象であろうサムスン電子が公開している美術館に、世界に10匹しかいない巨大な蜘蛛「Maman」が2匹いるということである。
日本の電機、電器企業、東芝、日立、ソニー、その他、これといった美術館を持つということは聞かない。かろうじてパナソニックがパナソニック汐留美術館を持つ。ジョルジュ・ルオーのコレクションを持つが、言ってみればそれのみ。韓国古美術とコンテンポラリーアートに特化したサムスン美術館とは、残念ながら、比べることさえできない。
そうではあるがパナソニックの美術館、時折り興味深い企画展を催す。



つい先日まで催されていたギュスターヴ・モロー展もそう。
ギュスターヴ・モロー美術館から70点を持ってきた。
「出現」や「一角獣」を含め。
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JR新橋から10分足らず。ギュスターヴ・モロー展の看板が。
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正面にパナソニックのビルが。
そのガラスの壁面にはハートが重なって描かれ、「LOVEWALL By JGOLDCROWN」の文字が。なにやら不思議。
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左はパナソニックのビル。右は「汽笛一聲新橋を」の旧新橋停車場を移築したもの。正面はガラス張りの高層ビル。新橋である。
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<パリの宝石箱からこぼれ出た、幻想世界>、と記されている。
まさしく、そう。が、ギュスターヴ・モロー展でカメラが許されているのはこの看板のみ。
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パリには、作家が住みアトリエとしていた所が美術館となっている個人美術館が幾つもある。
ロダン美術館は少し大ぶりであるが、ドラクロア美術館やギュスターヴ・モロー美術館は、まさに作家の息遣いが感じられる。特にギュスターヴ・モローの美術館は。私のお気に入り美術館のひとつである。
初めて訪ねた折り求めたモローの画集には、「13/08/95]という書きこみがある。1995年のお盆休みに行ったようだ。
写真が貼ってあり、<ラ・ロシュフコウ通り 三色旗の建物が国立モロー美術館>、とエンピツで書かれている。分り辛いが、建物の2階にフランス国旗・三色旗が掲げられている。
国立ギュスターヴ・モロー美術館の日本語版のパンフも貼りつけてある。小さなものだが、24ページ建てである。中にこういう記載がある。
<ギュスターヴ・モローは遺言によって、青年の頃から住んだ家を、中にあるもの一切と共に国家に寄贈した>、と。さらに、<約850枚の油絵、350枚の水彩画、7000枚以上のデッサンが、アトリエの壁や、館の様々な部屋、設置可能なあらゆる場所に巧妙に取り付けられた、沢山の、可動展示版つき家具の中などに納められている>、と。
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国立ギュスターヴ・モロー美術館の正面ドア。
以下、最後、7年前の2012年に訪れた折りの写真で今回展の出展作を追う。日本の美術館と異なり、欧米の美術館は「カメラはダメ」なんて無粋なことは言わない。
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中に入ると、あちこちの壁面、作品がビッシリ。
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作品の説明板がある。日本語版もある。
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ここも作品が隙間なく。
中央の作品は・・・
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≪踊るサロメ≫。
素晴らしい作品。今回展にも来ていた。
その右の作品は・・・
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≪一角獣≫。
今回展のポスターにも登場する目玉作品。
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この作品も≪一角獣≫。
ギュスターヴ・モロー、純潔の象徴である一角獣を数多く描いている。
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そして、いよいよこのコーナーである。
視線の先には、≪出現≫が現れる。
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この右隅。
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≪出現≫。
ギュスターヴ・モローと言ったら、何をさておいてもこれであろう。
ユダヤの王女・サロメ、ヨカナーンの首を。
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日本語版の説明板。
旧約聖書の物語である。
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近寄る。
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さらに。
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サロメは、後光の差す血の滴るヨカナーンの首を手にした。
おどろおどろしくも、引きこまれる。ギュスターヴ・モロー、このサロメとヨカナーンの物語・「出現」については多くの作品を描いている。多くの習作も含め。
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先述したモロー美術館で求めた画集から、その1枚を複写する。
油絵ではなく、水彩画の≪出現≫。今、ルーブルにある。



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ところで、これ。
帰路、改めてこのガラスの壁と向きあってみた。
旧新橋停車場の影が映っている。新橋駅の方の光景も。私の姿も。
パナソニックのこのビル、リノベーション・ミュージアムというコンセプトもあるらしい。が、それと「LOVEWALL」の関係は。
ハートが重なった「LOVEWALL」、作家のJGOLDCROWNはアメリカ人だそうが、この壁面、彼を呼んできて描かせたそうだ。
「LOVEWALL」、ギュスターヴ・モローの愛を考える。
母親・ポーリーヌに対する愛、そして結婚はしなかったが30年にわたる恋人・アレクサンドリーヌに対する愛を。