木場から銀座へ都バス旅。
コミさん・田中小実昌は旅の名人で、日本と言わず海外と言わずあちこちを、ふらふらと歩いていた。特にお得意はバスの旅。
<ぼくはバスが好きだ、と書いたりしゃべったりしているけど、観光客が見てまわったりするものにはまったく興味がなく、いや苦痛でもあり、だから、しかたなく昼間はバスにのり、夜は酒を飲んでるのか>(田中小実昌著『世界酔いどれ紀行 ふらふら』 知恵の森文庫 2000年刊)。
コミさん、キプロスで、ニューヨークで、アムステルダムで、ベルリンで、ロンドンで、昼間はバスにのり、夜は酒を飲んでいる。ふらふらふらふら、と。
<ぼくはバス病だ>、と自ら語るコミさんのコミさんらしい最たるものは、行き先も確かめずバス停で来たバスに乗る、ということである。私は遥か昔からこのコミさんのワザに憧れを抱いていた。
しかし、これがなかなか難しい。バス停にいると、その行き先はだいたい分かる。二つ三つ行き先があっても。だから、行き先は分かっていてもバスに乗ってできるだけ遠回りするようなことは時折り行っている。
木場公園のMOTへ行った後、現代美術館前から銀座まで都バスに乗った。距離は大したことはないが、45分ぐらいかかる。このコースは以前にも2度都バス旅を行っている。
久しぶりの都バス旅。
MOT、現代美術館前から5分ほどで木場駅前。
バスは三つ目通りを南下する。
塩浜橋かな。
枝川一丁目。
豊洲運河。
運河って、味があるな。
このバス停はどこだったっけ。
行き先が4つも5つも記されている。いずれも東京湾の方角である。
私は新橋行きのバスに乗っている。
豊洲駅前。
人工的、コンクリートの香りがする。
新しい豊洲市場とは少し離れているようだ。
IHI前があり、日本ユニシス本社前があった。
このあたり、人の気配がさほどしない。
東京湾へ向かう隅田川は、月島にぶつかり二つに分れる。その東側の流れである。
中央部に小さく「HARUMI FLAG」という字が見てとれる。
「HARUMI FLAG」、来年の東京オリンピックの選手村の跡地に計画されている大規模開発の名称だそうだ。何棟ものタワーマンションやその他の施設が生みだされる模様。
中央区のこのあたり、川が多い。
人工的な川、運河であろうと思われる。
ホントこのあたり、川とコンクリートの町。
月島四丁目。
ここも無機質。
バスは、いつの間にか晴海通りに入っている。
隅田川の本流か。
だとしたら勝鬨橋を渡っているのかな。
[
築地の場外市場のはずれである。
近寄ると、この看板。
窓外の光景が変わってきた。
町中に入った。銀座の中央通りが近い。
銀座四丁目でバスを降りた。
和光の時計塔のすぐ手前で。
都バスのこのルート、スカイツリー前から菊川駅前、木場駅前、豊洲駅前、勝鬨橋南詰、築地、銀座、そして終点の新橋までの路線。墨田区、台東区、中央区をかけ廻る。
端から端までなら1時間少しかかるであろう。料金は1時間少しの端から端でも210円。驚くほど安い。
バスの旅、十分に満喫した。