萩野美穂子クレパス画展。

銀座一丁目奥野ビル5階の一番端、501号室は、Art Spece RONDO。
覗いてみると、何なんだこれは・・・、面白そうな小さな絵が並んでいる。

荻野美穂子のクレパス画。
タイトルは、≪雨に歩けば≫。

Art Space RONDOの案内ハガキには、こう記されている。
<作者は誰もが小学生のとき使ったサクラクレパスにこだわり、10年以上もクレパス画を描いてきました。色を厚く重ね、表面を削って描いた絵は、豊かで奥深い表現となり、見る人に迫ります。今回の個展は、この10年描いてきた作品の中から、RONDOが厳選しました。・・・・・>、と。
クレパスを塗り重ねたり、引っ掻いて削ったり、面白い作品である。
タイトルは、≪何ですか≫。
”何ですか”って何ですか。”何ですか”ってところが何ですか、洒落てるよねー。

奥野ビル内のギャラリー、皆とても小さい。501号室のArt Space RONDOも、とても小さなギャラリーである。
しかし、この程度の壁面はある。
船の中みたいだな。
大きなクルージング船の中。しかし、上階の特等や1等の船室ではなく、下の方の3等船室の壁みたい。

501号室、端の部屋だから、元々は丸窓が開かれていたんだ。
それが、いつの頃からは、閉じられた。

年を経てくると、閉じられた窓にも隙間ができてくる。
上方のライトがその隙間を通し、空に浮かんだ雲のような姿を現している。

中央のパステル画のタイトル、≪いい事ありそう≫。
隙間を通した白雲の下、いい事ありそうな感じがしてくる。

≪ヒールDEカッポ≫。
クレパスで描き、引っ掻いて削り、また描き、引っ掻いてを繰り返す。

≪感≫。
粋な色調。

荻野美穂子がこの10年使っているというクレパス。
サクラクレパスである。
サクラクレパス、何十年ぶりに見た。50年、いや60年以上前。

≪そして≫。
案内ハガキにも使われている作品である。クレパスを塗ったり、削ったり。

”そして”ってタイトルも、何やら感を覚えるが、そのタイトルを記したラベルも、501号室の趣きのある壁に溶けこんでいるよう。

7時前、5階から階段を下りる。
時代を飲みこんだ階段の手すり、永年多くの人に踏まれて擦りへった廊下。味がある。
実は、銀座一丁目の奥野ビル、昭和7年(1932年)に竣工されたビルである。80年以上前。昭和初期の高級アパートである。日本初のエレベーター付きの民間アパートでもあるらしい。

階段の踊り場。
時の蓄積を感じる。

奥野ビルへ入った時、このエレベーターで上へ上がった。6階まで。そこから歩いて下りてきた。
このエレベーター、銀座最古の手動式のエレベーターである。
外の扉を開け、中の蛇腹を開け、中へ入り、それぞれの扉と蛇腹を閉めて、昇降する。
手動式エレベーター、何度か行き会ったことがある。
20年ほど前、ホーチミンの美術館(歴史博物館だったかもしれない)、コロニアル様式の建物の中にあったエレベーターが手動式であった。立派なものであった、という思いがある。また、15年ばかり前、パリで一週間ほど滞在した小さなホテルのエレベーター、驚くほど小さなエレベーターであったが、それも手動式であった。

こういう説明書きがある。
今の日本では、こういう説明書き、必要であろう。

奥野ビル、銀座一丁目、銀座中央通りを昭和通りの方へ、2本入ったところにある。
夕刻の奥野ビル、その前には自転車が幾つも止まり、昭和の香りが漂っている。