稀勢のため息。

隠棲しているのだが、あちこち出歩いている。一年納めの九州場所もテレビ桟敷に座るのは3、4日であった。
先場所、全勝優勝を飾った豪栄道の綱取り場所と言われていたが、そんなことになるわけがない、と思っていた。先場所全休の白鵬も出てくるし、大関になって以来二桁勝利も数えるほどの豪栄道が、今場所も勝ち続けることは考えられなかった。

結果は、鶴竜が3度目の優勝を遂げた。
これで今年の6場所、白鵬が2度、そして琴奨菊、日馬富士、豪栄道、鶴竜と、5人の力士が賜杯を抱いたことになる。誰が優勝してもおかしくない状況になっている。
その中で、お前だけが抜けてるじゃないか、というのが稀勢の里である。
今年も3度も稀勢の里の綱取り場所が設けられた。稀勢の里には甘い相撲協会の、「甘いなー」って設定もあった。
しかし、稀勢の里、そのいずれの機会もものにすることはできなかった。大関4人の中、優勝していないのは稀勢の里だけ。歯がゆいったらない。
このところの私、稀勢の里を突き放していた。NHKの解説者・北の富士さんも、「可愛さ余って」というスタンスをとるようになっていた。私や北の富士さんばかりじゃなく、日本中の相撲好き、多くの人はそう思っていたのではないか。
が、今場所は誰が勝ってもおかしくない場所であった。稀勢の里が優勝しても。しかし、優勝したのは鶴竜であった。
どういうことだ、稀勢の里。

9日目、稀勢の里と豪栄道、共に6勝2敗での一番。

稀勢の里、突き落としで豪栄道を破る。
3敗となった豪栄道、これで綱取りはほぼなくなった。

12日目、稀勢の里対日馬富士の一番。
稀勢の里、10日目に白鵬を、11日目に鶴竜を破っている。

この日、日馬富士を寄り切りで破る。
稀勢の里、3人の横綱を総なめにした。今の状況では、不思議なことではない。しかし、これで稀勢の里が優勝できないことが不思議なんだ。

翌13日目の稀勢の里の相手は、栃ノ心か。
この日、ライブでは見られなかったが、夜のスポーツニュースで見た。前日まで3横綱を屠ってきた稀勢の里、栃ノ心に敗れた。

12日目を終わってこういう状況。
大混戦である。

12日目が終わった段階での上位陣の星取は、こう。
1敗は鶴竜のみ。
他の力士にも優勝のチャンス大いにある。もちろん、稀勢にも。

ここへきて、年間最多勝のことが云々、となっている。
平成18年以降、年間最多勝は白鵬が9連覇である。
今年、10連覇がかかっていたが、先場所の全休でそれは途絶えることとなった。

稀勢と日馬富士、せっていたが、年間最多勝、稀勢の里が制した。

優勝した鶴竜、敗れたのは11日目の稀勢の里のみ。
稀勢の里、その翌日、栃ノ心に敗れている。
その日の模様、私はライブでは見ていない。夜遅くのスポーツニュースで見た。
栃ノ心に敗れた稀勢の里、戻った支度部屋で記者の質問に、こういう声を発する。
「ああーあぁー」というため息を。
長く尾を引くため息であった。
稀勢の里の「ああーあぁー」という長いため息を聴いた私は、稀勢の里がとてもいとおしく感じられた。
稀勢が愛おしい、いとおしい。
ここ暫らく突き放していたが、稀勢の後押しをしてやろう、と。
何とか賜杯を抱かせてやりたい、綱を張らせてやりたい、と。