休場の白鵬 低迷の豪栄道を走らす。

言葉の用い方の誤りなどは承知の上、敢えて今場所の総括をすれば、今日のタイトル、上のようになるのではないか。かっての文化国家(今は文化国家とは思えない)である、あの大国の顰に倣い。

大相撲秋場所、今場所は稀勢の里の綱取りの場所であった。
足の指が完治せず休場の白鵬、「稀勢の里、チャンスだよ」、と言っていた。稀勢の里へのエールともとれるが余裕の言葉ともとれる発言を。
確かにそうであった。白鵬がいなけりゃ、白星ひとつ、丸々とは言わないが儲けたようなもの。稀勢の里、優勝で綱取りだ、と多くの人が思った。
ところが稀勢、初日、隠岐の海に敗れる。腰が高い。
稀勢の里を何のかのと贔屓にしている解説の北の富士、こう語る。
「稀勢の里は、場所前の稽古で日馬富士にバンバンやられていた。弱いんだ。稀勢の里は、ホントにもう弱いんだ」、と。残念無念、匙を投げた、というやや投げやりな口ぶり。返す刀で、「隠岐の海も、平幕で時々横綱や大関を破って喜んでいればいいんだ」、と。北の富士、孫弟子の隠岐の海が能力がありながら三役へ定着せず、向上心に欠けるのがはがゆいんだ。「もう諦めた」、とも語る。
北の富士、70も超え、その解説にも味が出てきたが、どこか子供っぽいところがある。贔屓の稀勢の里や隠岐の海の不甲斐なさにヘコんで投げやりな言葉を発することがある。
それがまたかわゆいんだが。
それはともかく、10日目。

序盤で2敗を喫した稀勢の里、その後持ち直し、この日琴奨菊を破り、8勝2敗。
翌日は10日目まで白星を重ねている豪栄道戦。
稀勢の里、豪栄道には分がいいのだが、これに敗れる。3敗となる。

13日目。
花道で出を待つ豪栄道。

この日、稀勢の里は鶴竜に敗れ4敗目。

支度部屋に戻る稀勢の里、何を思う。

13日目結びのこの一番が、今場所の白眉。

今までの対戦成績。
豪栄道、4回に1回しか勝てないんだ。

2度目の仕切りであったか3度目であったか、仕切った後の両者、睨みあう。以前は時折り見られた睨みあい、最近ではあまり見られない。
両者の睨みあい、10秒以上続いたのではないだろうか。立行司・式守伊之助、両手を広げ、両者を分けた。
見ものであった。

時間前、最後の仕切り。
日馬富士、グッと沈みこむいつもの仕切り。豪栄道は、丸い仕切り。

日馬富士、低く立った。
相撲の流れは日馬富士。日馬富士、豪栄道を土俵際に追いつめる。

と、一瞬、豪栄道、イチかバチかの首投げ一閃。日馬富士の身体は宙を舞う。
首投げ、豪栄道の得意技である。しかし、あまりほめられたものではない。攻められてイチかバチかの対応なのだから。決まればよし、といった程度のものである。
しかし、この日は決まった。今場所の豪栄道、運がある。

13日目までの星取り。
綱取り場所であった稀勢の里、この一番を決めることができない。
また、この日まで全勝の豪栄道と同学年の2人、栃煌山と妙義龍はどうしたことか。彼ら2人とも三役どころか大関を張っていてもおかしくない実力者である。豪栄道の位置にいて。両者とも名大関になるのでは、と思っていた。それがこの成績、どうした。
照ノ富士は重症だ。フィジカルな面もあろうが、メンタルトレーニングが必要だ。

14日目、土俵下の豪栄道。

今場所の玉鷲は強い。

しかし、そうは言っても番付け通り。
豪栄道、寄り切る。
豪栄道、秋場所、優勝。

NHK、皆さん中継を見ていたはずなのに、このような緊急テロップを流す。

優勝が決まった後インタビューを受ける豪栄道。
その頬には涙が。
そうであろう。

大阪出身力士の優勝は80何年ぶりだとか、

カド番大関の優勝はとか、

初優勝が全勝の・・・、とか。
それだけ豪栄道の優勝は、珍しいこと、稀なことなんだ。

今日の千秋楽、花道で出を待つ豪栄道。
画面左の方には、豪栄道のお母さんの姿も。ここ何日か、大阪から出てきて国技館に来ている豪栄道のお母さんの姿が、毎日テレビ画面に映る。テレビ桟敷の皆さん、皆さん豪栄道のお母さんを覚えてしまったであろう。

今日も勝って15戦全勝。

日本相撲協会理事長・八角から豪栄道、天皇賜杯を受ける。

内閣総理大臣杯は、官房長官の菅義偉から授与された。
菅義偉、以前にもこの日本中の男が憧れるこの役目を務めていたような気がするが。

三賞は、隠岐の海、高安、遠藤に。
妥当である。

秋場所は終わった。
しかしこれから、優勝を決めた豪栄道には、厳しい道が続く。
日本相撲協会の審判部長・二所ノ関、来場所は豪栄道の綱取り場所だと語る。
理事長の八角もこう語る。
「2場所連続、そういう決まりなんですから」、と。
来場所、豪栄道が優勝するかそれに準じる成績であった場合には、横綱に、ということなんだ。
決まりだからって。
しかし、私には、今日解説の北の富士が語った言葉が心に残る。
北の富士、こう語った。
「鶴竜は厳しい状況におかれるでしょうね」、という言葉。横綱としての鶴竜の成績、満足できるものではない故だ。
鶴竜が横綱となってから15場所となる。
その間、129勝56敗40休である。勝率は、5割7分3厘。低い。
大関時代も見てみると、大関在位12場所で、119勝61敗。勝率、6割6分1厘である。
鶴竜の場合、横綱となり休場が増えたことがあるが、大関時代と比べ勝率は落ちている。
翻って、豪栄道の大関としての成績を見てみる。
豪栄道、2014年秋場所に大関となている。それ以来、先場所までの12場所の成績は、以下の通り。
93勝86敗1休、勝率は、5割1分7厘。毎場所15日間に当てはめると7.76、8勝弱である。
今場所の15戦全勝を加えても、その勝率は、5割5分1厘。毎場所平均、8.31、8勝少しということである。いやー、大変だ。
豪栄道、来場所で仮に横綱となった場合、その後、厳しい相撲人生があるものと思う。おそらく早い引退となるであろう。
横綱には、カド番ということがないのであるから。