丸山恵美子展 まる語り六。

ギャルリー東京ユマニテを出た後、奥野ビルはすぐ近くだな、久しぶりでRONDOの丸山さんに会っていこうと思った。RONDOにも久しく行っていないし、丸山さんにも久しく会っていない。

久しぶりの奥野ビル。
手動のエレベーターも久しぶり。
501へ行ったが、アレッ、RONDOの小さな看板が出ていない。ドアを開けるとテーブルと椅子が目についた。スーツを着た男が電話をしている。丸山さんではない。「どうも」と言ってドアを閉めた。
すぐ近くにいた女性に「RONDOはなくなったんですか?」、と訊いた。「そうなんです。春過ぎ、夏前に閉めました」、と返ってきた。丸山さんも大変だったんだ。「貸画廊なのに、時折り自分の個展をやってましたものね」、と話す。「丸山さん、いい人だったですよね」、とその女性は言う。「そう、いい人でした。どうやって食っているのかよく解らない人でしたが丸山さんは」、と私。
と、その時、「私も丸山です」、と言って若い女性が飛び出してきた。
奥野ビルの中、小さい部屋が連なっているので廊下の声もみな聞こえる。すぐ横の部屋の画廊の主も丸山さんかと思ったら、オーナーではなく作家であった。

廊下から見ると、たしかに<EMIKO MARUYAMA>と記されている。

こういうものも。
<眠れる ハブラシ こちら>って、いったい何なんだ。「眠れるハブラシ」って。
部屋へ入る。

角に小さな机。

アクリル画のようだなと思ったら・・・

ミックスドメディアのコラージュであった。
それよりも「ソース シリーズ」と記されている、これらの作品。
「ソースって、あの食べる時のソースってことのようですね」、と言ったら、「そうです。あの食べる時のソースです」、と作家の丸山恵美子さんは言う。

これは・・・

チョコレートソース。

このふたつの作品は・・・

このようなソース。

この作品は・・・

このようなソース。
オレンジソースってどういうものか。カボスやポン酢のほうが美味いと思うが。

いよいよここである。
「眠れるハブラシ」である。いったい如何なるものであるのか。

窓際のベッドでハブラシが眠っている。
本当の名前で呼ばれると、ハブラシは起きあがるそうだ。

ベッドに横たわるハブラシ、耳にヘッドフォンをつけている。

この作品のタイトルはこれ。

今一度、これを。
私は、「丸山さーん」と言った。

が、ハブラシはピクリともしない。
作者の丸山恵美子に今までに本当の名前で呼びかけた人がいるのか訊いた。誰もいない、とのこと。そりゃそうだよ。
「作者である貴女以外、誰も本当の名前を知らないんだ」、と話すと、作家・丸山恵美子、「実は私も知らないんです」、と返ってきた。「でも、本当の名前で呼ばれたら起きあがる仕掛けがなされてあるんです」、とも。
「丸山さん、貴女ヒョッとしてバンクシーなんじゃないの」、と言いこう続けた。
「この作品、ロンドンかニューヨークで、サザビーズかクリスティーズのオークションに出せばいい。まあ、1000万やそこらの値はつくのじゃないか」、と。作家は「クスッ」としていたが。

これもハブラシ。

この卵の上に蛇のようにくねったハブラシが乗る作品は・・・

このようなタイトルの作品。

盥で行水をしているハブラシを描いたこの作品のタイトルは・・・

こういうもの。
アーティスト・丸山恵美子、言葉、言語表現にこだわる。

こういうものがあった。
アレッと思い丸山さんに、「これには私の友達も出していて今年見に行きました」、と言うと、「私も出していました」、と丸山さん。「気がつきませんでした」、と私。「ハブラシ、小さなものですので」、丸山さん。
しかし、よく見ると、このポスター、2019年と刷られている。来年の展覧会のポスターである。
来年は見落とさず、丸山恵美子のハブラシ作品も、と。