「不合理ゆえにわれ信ず」 櫻井陽司+東千賀+安彦講平。

11月末、久しぶりで奥野ビルのRONDOの丸山さんのところへ行ったが、RONDOは無くなっており、丸山さんにも会えなかった。
が、RONDOの丸山さんには会えなかったが、「私も丸山です」と言って部屋から出てきた「眠れるハブラシ」の丸山さんと会った。不思議な作品を創っていた。「貴女、ヒョッとしてバンクシーなんじゃないの」、と言って眠っているハブラシを眺めていた。
帰りは階段を下りた。2階の階段の横に、壁一面多くの紙片が貼りつけられたギャラリーがあった。

何やら厚そう、深そうだ。久しぶりで重厚長大、これぞ絵画って作品に会えそうな匂いがする。
それまで「眠れるハブラシ」が起きあがるかどうか、なんてことを丸山恵美子さんと話していたので、なおさらそう思う。それとは真逆の作品である。
しかし、既にギャラリーのドアは閉まっていた。

が、どうしても気になる。
数日前、また奥野ビルへ行った。ドアは開いている。

ギャルリ さわらび、開廊15周年記念展。

案内カードを複写する。
「不合理ゆえにわれ信ず 櫻井陽司+東千賀+安彦講平」展。
画廊主であり、本展企画者でもある田中壽幸による企画意図、テーマの由来、3人の作家紹介が記されている。
広げてお読みください。

奥野ビルのギャラリー、いずこも狭い。凹凸もある。床も何やら味がある。

私がギャルリさわらびに入った時には、何組かの先客がいた。それらの人たちが帰った後、画廊主らしき人に声をかけた。「写真を撮ってもいいでしょうか」、「それをブログに載せてもいいでしょうか」、と。
その人は、「写真ね、ブログね」と言い、一拍おいて「いいですよ」と答えた。
「ありがとうございます」と言い、こちらからも撮る。
画廊主かなと思っていた人は、やはりそうであった。田中壽幸さんという。
田中壽幸さんとさまざまなことを話した。
今の時代のこと。第4次の革命期であること。インターネットは第3次であり、今はAIなど第4次の変革の時代である、と田中さんは言う。
確かに、そうである。

櫻井陽司≪運河≫。油彩、画布。
前掲の作家紹介によれば、櫻井陽司は1915年生まれで2000年に没している。麻生三郎や駒井哲郎と・・・ということが記されているが、私は初めて知った作家である。
アクリルで描いた作品を多く見る昨今、ウッ油絵だって感じを受ける。正統派の油絵だって感じを。

安彦講平≪飜本 Ⅰ≫。油彩、画布、F120号。
私は、「飜本」の文字が読めなかった。何と読むのか画廊主らしき男に訊いた。「ほんほんです」と言ったか、「ほんぽんです」と言ったか、返ってきた。その人、後で分かったが、ギャルリさわらびのオーナーである田中壽幸さんであった。
「飜本」の意味も訊いた。が、今、正確にここに記すことはできない。「飜」は「ひるがえす」とか「ひるがえる」といったことらしいが、それに「本」がつくと何だったか。
安彦講平の作品、この「飜本」といったタイトルが多くついていたが、ただ言えるのは何とも深い、ということ。
前掲の作家紹介にも記されているが、安彦講平、あちこちの精神病院で「造形教室」を続けているそうだ。何十年もの永きに亘り。常人のできることではない。その精神の奥深さを感じる。
なお、この作品は未完だそうだ。驚く。しかし、完成することはおそらくないだろう、とも思う。それほどに深い。重層的。

東千賀≪みなそこ≫。油彩、画布、M100号。
「みなそこ」、「水底」であろう。そこはこうなんだ。水底、静かなのかと思ったら動いているんだ。激しく。その様を正確に捉えている。
ところで、今、改めてこの3人の作家の作品写真を見て、クールベのことを思い出した。写実主義の権化・ギュスターヴ・クールベである。
まさに。

安彦講平の小品3点。
上から・・・

≪地底の瀧 Ⅰ≫。版画、紙。

≪飜本 Ⅶ≫。版画、紙。

≪飜本 Ⅲ≫。インク、墨、顔彩、版画、和紙。

安彦講平≪飜本 Ⅳ≫。インク、墨、顔彩、版画、和紙。

近寄る。
どこまで突きつめる。

東千賀≪少女≫。鉛筆、紙。1966年。

少女の顔、正面から。
東千賀、女子美の出身であるが、桑沢デザイン研究所でデッサンの教授をしていたそうだ。
こうして見ると、鉛筆が描く線一本、意味を持つ。

ギャルリさわらび、この左手の向こうにもうひと部屋がある。
が、その前に右手に映っている作品に。
安彦講平≪自画像≫。油彩、画布。
近づく、正面から・・・

安彦講平の自画像にさまざまなものが映りこむ。

奥の部屋へ入る。
正面の作品は・・・

安彦講平≪飜本 Ⅷ≫。鉛筆、紙。

部屋の横に窪んだところがある。そこにこの作品が。
櫻井陽司≪エイと生物≫。油彩、画布。1994年。
王道をゆく油彩画・油絵である。

この壁面。
右の方に小さなこの作品。

東千賀≪顔≫。油彩、画布。

櫻井陽司≪裸婦≫。コンテ、紙。

さらに左の方へ。

東千賀≪木霊 人時計と化す≫。鉛筆、紙。

「木霊、こだま」である。
近寄るとその木霊・こだま、凄まじく精緻に描かれていた。
終幕まで後2、3日、興味のおありの方は、奥野ビルへ。