早稲田美研60−70 第7回展 出品録(4)。

いつものことながら、画廊へ入ってくる皆さん、石田宏の作品には”ウヌッ”って顔になる。

石田宏、自らの作品の前の小さなイスにチョコンと座っている。手にはカンビールを持ち、いつもニコニコと。
知り合いが来ると、カンビールを渡し、自らもプシュッと開ける。おそらく石田、毎日来る時にカンビールを1ダースくらい持ってきて冷蔵庫に入れていたのではないか。と思われる。
それはそうと、石田宏の作品、タイトルは≪京浜東北沿線の街々≫。画用紙にペン描き淡彩。天地2メートル強、左右3メートル弱。
A4の紙、を14枚×6段、合計84の”京浜東北沿線の街々”で構成されている。
京浜東北、大宮から大船まで。しかし、”京浜東北線”というのは通称で、東北本線、東海道本線、そして、根岸線の3つの線が繋がっているものだそうだ。石田宏、やけに詳しい。
少し近づこう。

中華街場末とか石川町・寿町とか、ここらは根岸線であろう。

まずは大宮から出て浦和を通り・・・、となる。

蕨、川口、宇淵・志茂を経て赤羽へ。
立ち呑みの「喜多八」、「いこい」や、オヤジ文化満杯と石田が言う「まるよし」などの飲み屋が描かれている。それと共に、「赤羽のイメージには何となく異なるのだが、カソリックの教会もあるんです」、と石田。戦後すぐ、アメリカの寄付で建てられたそうである。
久保寺洋子同様、石田宏も話好き。ニコニコしながら、次から次へと説明してくれる。

東十条、王子、堀船・尾久、西ヶ原、田端、西日暮里、東日暮里、谷中、根岸、上野桜木、と続くのであるが、それらはすっ飛ばし上野公園へ。
ゾウさんがいる。東博・表慶館のライオンもいる。

博物館や美術館、動物園の上野の山を降り、上野の駅近く。さまざまな飲み屋、居酒屋が現われる。
左上は、「大統領本店」。朝10時からの人気の飲み屋だそうだ。
その下の飲み屋は、さらに凄い。立ち飲み「たきおか」。朝の7時から営業している、とのこと。他にもさまざまな飲み屋が出てくる。

万年町だ。
この春、皆で東博へ花見へ行った後、石田が案内してくれた、”美味い、安い、言うことなし”の居酒屋「げんき」も、この近く。

銀座って言っても、カルティエやルイ・ヴィトンなどとは、まるで接点はない。
そう言えば、三州屋は、やはりあちこちの居酒屋に詳しい久木亮一に何度か連れられて行った憶えがある。

ところで石田宏、昨年『ほろ酔い画帖 街々邑々』という書を上梓した。掌にすぽっと入る洒落た画文集。
初日、私が画廊へ着くと、杉浦が何やら本を見ている。横の石田は何やら指差している。横の台にはカンビール。
何と、石田宏、今回の出品作≪京浜東北沿線の街々≫の84の街々の作品に文章を付けた本を創ってしまった。
左ページに絵、右ページに説明文。A4判、174ページの本を。パソコンで作ったそうだ。石田、仲間の皆に配った。

その扉。

例えば、新橋駅前ビル。
「へそ」とか、「ポンヌフ」とか、「こひなた」とか、「ビーフン東」とか、サラリーマンおやじが日々通うという店が描かれている。

途中、さまざますっ飛ばす。
蒲田である。
蒲田にも「三州屋」があるようだ。「信濃路」、「のんきや」、「権兵衛」なんていかにもの店が描かれる。

またぶっ飛ばして、横浜、桜木町へ。
中央は、立ち喰いそば「鈴一」。<喰わずに居られようかと煩悶する>、と石田は記す。

洋光台から大船へ。
京浜東北線の終点だ。
石田宏、今回の早稲田美研60−70展に合わせ作製した書・『京浜東北線沿線の街々』の「はじめに」に、こう記している。
<京浜東北線の大部分は東京の武蔵野台地と神奈川の志茂末吉台地の崖下を走る。大宮から大船に向かっては、まず、埼玉の低地を走り、ついで武蔵野台地の崖下を走る。線路の東と西の街の表情が全く違う。西が山手、東が下町である。東側は・・・・・>、と。
石田宏、朝から夜まで酒を飲んでいる男であるが、その世界ではよく知られた建築家である。居酒屋のことばかりでなく、地勢のことについても詳しい。