流山子雑録     『酔睡胡乱』

石田宏 画・文集『酒場呑み』。


一昨々日、石田宏から新しい画文集・『酒場呑み』が届いた。
石田宏、先般の「早稲田美研60-70 第10回展」の時には作品を送ってきた。その会期中、石田は手術を受け成功、癌からの生還を果たした。仲間すべてが喜んだ。
新しい画文集・『酒場呑み』、先般の美研60-70展に出展された作品を纏めたものである。
朝から夜まで呑兵衛で、スケッチ特異な石田宏、2013年に『ほろ酔い画帖 街々邑々』を上梓した。どうぶつ社の久木亮一がシャレた体裁の書を作った。
その後、オンデマンドで、「京浜東北沿線の街中」だとか、「勝手に鎌倉案内」だとかを作り、あちこちへ配っている模様。
いや、いずれも面白い。その切り取った人物の模様、その時間のあちこちが。
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石田宏画文集・『酒場呑み』。
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古典酒場から始まる。
根津、京島、神田司町。いわばレジェンドから。
以下それぞれの画面、指で広げて読んでください。
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高架下と、
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ガード下ってどう違うのか。
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工場の端、(左)はそのような模様、(右)は寄せ場呑み。
寄せ場である。これ以上どうこうということはない。
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「角打」だ。
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「角打」、酒屋で飲むことである。
立飲みとは違う。
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立飲みは、飲み屋で立って呑む。
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立飲み、当然のことながら「朝から立飲み」がある。「昼から立飲み」も当然だ。
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三州屋である。典型的な居酒屋である。
三州屋には、やはり居酒屋に詳しい久木に何度か誘われた。東京駅近くの店であるとか、神田の方であるとか、と。
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(右)の方を。新宿5丁目の「JAZZ SPOT」。
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島谷晃の作品とジャズとのコラボであった。
大橋美加のお弟子さんの歌いだしが遅れた。私は、そう記した。と、大橋美加ら強烈なメールが届いた。
あれは、自分の弟子の間違いではなく、伴奏のピアノの間違えであった、という。訂正してくれ、という。そのようなことにした。
大橋美加、石田宏が記すように、「立派な姉御」であった。
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左のページに「赤提灯、黄提灯、白提灯」とあるが、右側の「酒場団地」と石田が記している新宿ゴールデン街。
あだやおろそかにはできない。
ゴールデン街へのデビューは1970年前後であった。
2回にわたり、3年近くの結核療養所での暮らしから、左肺の一部を切り取り、私は世の中へ戻った。同じころ、結核療養所に入っていた男も退院してきた。板前であった。いなせな男であった。それとともに本の好きな男であった。
私より10ばかり年嵩の男。その男からゴールデン街を教わった。1970年前後である。


(一昨日、うつらうつら、ふらふらしながらキーを打っていたのだが、どうもここで眠ってしまったようだ。
昨日、手を入れようと思っていたが、記載画面が表示されずどうともできなかった。2日経った12日に補う。)

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ゴールデン街である。「十月」も描かれている。
パソコンの文字変換、時としてイタズラをする。石田宏もイタズラをされてしまったようだ。
それはともかく、石田宏もそう記しているが、多くの人がゴールデン街が広く知られるようになったのは、昭和51年、佐木隆三と中上健次が相次いで直木賞と芥川賞を受賞して以来である、と記している。
一昨日記したように、私は1970年(昭和45年)前後に結核療養所仲間の粋な板前の男に連れられて行った。幾つもの酒場へ誘ってくれた。「包丁一本さらしに巻いて・・・」という表現がピタリと当てはまる男であった。
当然、「まえだ」へも。
田中小実昌、中山あいこ、殿山泰司、唐十郎などと行き会った。たこ八郎もいた。
その頃のゴールデン街には武闘派もいた。私の知るのは「クマ」(後に、鉄のゲージツ家として知られ、ほんわかとしたキャラクターでも知られるようになったクマさん・篠原勝之)。クマさんの実際の喧嘩は見たことがないが、見るからに喧嘩が強い、ということが伝わってきた。あと一人、今はないが「次男坊」の「まむし」。この男も見るからに、こいつは強い、という男であった。
まあしかし、ゴールデン街が全国区となったのは、佐木隆三と中上健次によるところが大きいというのはそうであろう。
ゴールデン街の顔とも言える「まえだ」のママ、いつの頃であったであろうか、1980年代の後半、喉のがんとなった。手術し現場復帰することになった。その復帰祝いのパーティーが京王プラザの大宴会場で行われた。その復帰祝いの発起人の中心となったのは、佐木隆三と中上健次であった。東京会館での芥川賞、直木賞のパーティーを除けば、これほど物書きの来ているパーティーはないんじゃないか、という声が聞かれた。
そのパーティーの宴たけなわの頃、中上健次が都はるみの手を取って舞台へ上がった。都はるみは「普通のおばさんになりたい」と言って引退している時であったが、会場は沸いた。
30年以上前のゴールデン街である。「まえだ」のママ・前田孝子さんは1991年に亡くなった。
私のゴールデン街も1990年前後で終わった。今は、年に一回のみ。
「バー 十月」での犬飼三千子展に久木亮一とあと何人かで行くのみ。
時は経った。
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「朝から酒場」、朝9時開店というところが多いが、朝6時からという店もある。
んっ、住吉の「栃木屋」は、<PM4時に開店しPM8時にいったん閉店、夜中のAM3時に再度開店、朝のAM9時に閉店する。>、と石田のコメントがある。
なんとう、目が回る。
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私の住まいするところには朝から酒場はない。昼過ぎ夕刻近くからの酒場である。4時からというのが多いが3時からという店もある。
図書館へ行った帰りや映画館へ行った後などには、時々立ち寄る。
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A4、100ページに近い石田宏の画文集『酒場呑み』、「24時間酒場」で幕を下ろす。半世紀を超える石田宏の酒場愛であふれている。
石田宏に誘なわれていった幾つもの酒場が出てくる。が、この7、8年、新美術館での久保寺洋子の二科展の後、皆で繰り込む石田が起源の六本木の「松ちゃん」の記述がない。六本木とは思えない「早い、安い、美味い」の「松ちゃん」のことが。『酒場呑み』、「松ちゃん」を含む後編が予定されているのでは、と思われる。


ところでここ数日、仲間内で『酒場呑み』に関するメールが飛び交った。
その幾つかを記録しておく。


まずは山宣。
<新宿しょんべん横丁通りがかったら「思い出横丁」と大看板が、ゴールデン街もそうですが、
今や外国人呑み屋街と化してきたようですね。我々は西口ヨドバシカメラ街で(申し訳ない)…
洋光台のお店へ招かれたこと思い出しました。お身体回復されたら、団地酒場伺います。
                       ・・・毎日酒場の 山宣>。


早見堯の吉岡和夫、
<ど、どういう分類になっているのか定かには見定めがたいですが、わたしのような者が最も興味深く拝見したのは、「場末酒場」でした。
建物の風情と「ひと」の風情が極まる酒場みたいな。
その前が、「寄せ場呑み」、「工場街の酒場」だったので、「「場末酒場」の後は「断末魔呑み」かと思いきや、「串カツ」や「うなぎ串焼」と続いて、揚げて焼いて刺し貫くという展開で胸をなで下ろしました。
でも、やっぱり、最後は「場末感を漂わす」「24時間酒場」なんですね。
「客はこの空間でそれぞれの時間を生きる」
最後のことばが強く響いてきました。>。



妙高高原の植松圀夫、
<作品(呑酒場)、とても臨場感のある懐かしさをもって拝見させていただきました。ご多分に漏れず私も若い頃から酒場の時間を楽しんで来た一人ですが、宵闇からの数時間、永い人生からすれば、膨大な時間をそこで過ごしたわけで、上司批判から始まって、憤懣の吐露、友情や夢の交歓、無聊の慰め┅┅の何でもありの溶融の時空でした。それを見事な筆さばきで活写されていると思いました。描写力素晴らしいです。
吉田類などの番組がありますが、実写では限界がありダメですね。
やはり戯画だからこそ想像力が喚起されます。
加えて、作者が希たいの呑兵衛で(身を持ち崩すほどの?┅("⌒∇⌒"))、しかも建築会社の
社長、会長を務めておられたとか。COOLですね。>。



高橋重夫、
<ゴールデン街やしょんべん横丁が外国人で溢れていますが、
これ、英独仏翻訳版出版したらヒットするでしょうね (中国語は無し!) 。
地元の爺ちゃん婆ちゃんの憩いの場が外国人に占拠されてしまうのは、
見たくないですが........ついついビジネスを考えてしまいました。

時代とともに失ってほしくない日本人の「呑みのふるさと」
外国人に売渡すようなこと考えてしまってすみません。>。


石田宏の画文集、さまざまな者の心に深い思いを宿している。