たしかに神。

日本には多くの神がおわす。「八百万」という表現、必ずしも大袈裟ではない。山でも木でも石でも、何でもが「依代」になるんだから。
昨秋、目の当たりにした那智の滝、まさに神そのものであった。

那智の滝、青岸渡寺の境内から突然望まれた。
青岸渡寺の三重塔の向うに現われた、白い一本の線。
三島由紀夫著『三熊野詣』の藤宮先生と常子は、まず借りきった船の上から那智の滝を見ている。
このように。
<・・・・・、一カ所山肌のあらはれた土の色があって、そこに白木の柱を一本立てたやうに見えるものがある。・・・・・。それはあたかも、見てはならない神の沐浴の姿を、遠くから瞥見してしまったやうな感興をそそり、常子はきつとあの瀧の神こそ處女なのだと考へた>、と。

<今や那智の瀧は眼前にあった。・・・・・常子は、・・・・・、自分の胸へ落ちかかるほどに近い大瀧を振り仰いだ。それはもはや處女のやうではなく、猛々しい巨大な神だった>、と三島は書く。

たしかに、そう。
那智の滝を目の当たりにした人、そこに神を見る。

≪那智瀧図≫。
根津美術館所蔵の国宝。
加藤健司、畑中章宏、平松温子共著『神道の美術』(2012年、平凡社刊)から複写した。
2010年に世界文化社から上梓された『根津美術館』の中で、同美術館の学芸課長・白原由起子はこう述べている。
<本図は、瀧をありのままに描いた絵ではない。那智瀧の特徴や美しさ、言い換えれば心にやきつけられた瀧の残像を描くことで、その神性を現しめた聖画なのである>、と。
たしかに、そう。まさに、神。

那智の滝、那智の大瀧、熊野那智大社の別社、飛瀧神社。

熊野那智大社のご神体である。

隠国・熊野、まさに神の国。
神がいる。