時は流れる。

今月半ばのことである。
久しぶりで浅草へ行った。焼き鳥屋へ入った。
ずいぶん昔から行っている店であるが、たまにしか寄らない。その時も久しぶり。
小さな店である。鉤の手のカウンターには、せいぜい10人がいいところ。後ろに小さな机と椅子が二つばかりあるが、そこに座って飲むのはとても窮屈。だから、小さな机と椅子は、コートやカバンの置き場となっている。
カウンターの向うの板場には、やけに身体のデカい若い男がいる。ただ焼き鳥を焼いている。今までは、板場には中年の夫婦者、二人であったのだが、デカい若者が加わり三人。狭い板場、ギュー詰めである。
私のすぐ後に老人が入ってきた。古くからの馴染みらしいが、やはり久しぶりの模様。
「何とかちゃん、最近来る?」、と聞いている。「いや、このところまったく」、と以前からいる男が応える。「まだ店やってんのかな。死んじゃったんじゃないだろうな」、とも。
その内、話は先代の話となった。そういえば、じいさんの姿を見ない。
先代のじいさん、いつもカウンターの端に座り酒を飲んでいた。暫らく引っこんだかな、と思ったら15分か20分後には、また現われる。そして、また飲む。おそらく、1日の酒量、一升ではすまなかったであろう。そういうじいさんであった。
訊けば、そのじいさん、今年初めに癌で死んだ、という。そうか、酒をたらふく飲んで死んだんだ。私はその焼き鳥屋へ、今年行っていなかったのかもしれない、と思う。1年の時が流れたのか、とも思う。
カウンターの向うで、一言も声を発せず、ただ焼き鳥を焼いている若くデカい男が、中年夫婦の息子であることは、初めから何となく分かっていた。
その若い男、私がその店に行き始めた頃にはまだ小学生であったが、じいさんと同じく、ちょくちょく店へ顔を出していた。じいさんは酒を飲むためであるが、小学生の坊主は小遣いをせびって遊びに、ということだったのかもしれない。下町、浅草の坊主だもんな。
客と一言もしゃべらず、ただ焼き鳥を焼いているかっての小学生坊主、まだ、客商売の何たるか、が解かっていない様子。近々解かる時がくるであろう。
そうではあるが、時は流れる、という思い深く持った。
べらぼうな酒飲みのじいさんが死んで、その孫の身体のデカい男が焼き鳥を焼いている。
時は流れる。
その後、観音さまの方へ歩いた。

仲見世は、みな店を閉じている。そこを歩き、宝蔵門へ。

宝蔵門の前から、ライトアップされた五重の塔を見る。

宝蔵門の小舟町の大きな提灯の下から、本堂を見る。

金龍山浅草寺の本堂。

本堂へ近づく。

お賽銭をあげ、孫娘とその一家の幸せを祈る。常の通りである。

こちらから見た五重の塔。
漆黒の夜空に輝いている。

スカイツリーにも灯が入っていた。



今日、大晦日。
TBSとテレビ東京が素晴らしいボクシング映像を流した。
3試合も。その3試合、何れも世界タイトルマッチ。いずれもチャンプが勝ったが、見応えのあるものであった。
先ず、WBA世界ライトフライ級タイトルマッチ。チャンプ・井岡一翔とニカラグァのアルバラード戦。
井岡一翔、13戦無敗、9KO。アルバラード、18戦無敗、15KO。凄まじい闘いの末、井岡が勝った。
次いでは、WBCスーパーフェザー級の世界戦。
チャンプ・三浦隆司が挑戦者のメキシコ、ハルドンをTKOで破り、チャンピオンベルトを守った。
この二つの世界戦もよかったが、次のWBAスーパーフェザー級の世界タイトルマッチが凄かった。

連続KOで7回世界タイトルマッチを制しているチャンプ・内山高志に、6連続KOを続ける金子大樹が挑む。

凄まじい打撃戦が展開された。

結果は、内山高志がチャンピオンベルトを護った。
V8、具志堅用高の世界チャンプV13を狙っているようだ。

凄い試合であった。久しぶりにいい試合を見た。
解説の畑山隆則、世界戦と言いながらつまらない試合がある中、この試合は凄い、と言っていた。畑山の言、亀田ジムの凡戦を指している。確かに、そう。亀田兄弟の試合などとは、まったく違う。このような試合、久しぶりに見た。


敗れた後の金子大樹。
その顔、腫れあがっている。今日は、敗れた。しかし、
打たれ強いばかりじゃなく、パンチもある。今日も、10回にダウンを奪っている。
金子大樹、まだ若い。世界チャンプへの道、可能性は大である。
時は流れているのだから。