夏の記憶(1) 空蝉。

夜間は冷える。完全な秋となった。いつしか蝉噪はなく、虫の音のみ。
で、夏の記憶を少し。
4〜5年前には、小学生坊主のセミ取りと競争してセミの写真を撮っていた。もちろん、生きているセミや鳴いているセミの。
しかし、今年は生きているセミや鳴いているセミは一度も見かけなかった。セミの鳴き声はやたらに聞こえる。でも、その姿は見なかった。やはり、見よう、探そうという意志がないと、周りにいっぱいいても目には入らないんだ。
夏の一日、セミの抜けがら・空蝉は見た。

抜けがらがあるはずだが、と思って見ると、あった。

ここには二つの空蝉。
     梢よりあだに落ちけり蝉のから     芭蕉
芭蕉はこう詠んでいるが、案外梢や幹に留まっている抜けがらが多い。しかも、ガシッと。

より目を凝らすと、葉の裏側のあちこちに抜けがら・空蝉が張りついている。
     さかしまに残る力や蝉のから     子規

すぐ近くの遊歩道にこいつがいた。
オッ、セミだ、と思った。アブラゼミだ。
飛びたつだろう、と思って足先で軽くつついた。しかし、まったく動かない。形は留めているが、死していた。一週間少しという命を終えていた。
     幾万の蝉死に絶えて風の音     長谷川櫂

蝉、卵が孵化し、幼虫となり、土の中で7年前後を過ごす、という。
で、地上へ出てくる。土中から、もぐもぐとこのような穴を作って。このような穴から出て羽化するにも、細心の注意を要するそうだ。ハチ、アリ、クモ、カマキリ、鳥、その他さまざまな天敵がいる。
それらをかいくぐって後、はじめて、羽化した後の一週間少しの命がある。
空蝉から繋がる命。
秋となり、もの思う。


秋場所、白鵬、稀勢の里を破り、優勝が決まった。楽日を待たず。
稀勢の里、不甲斐ない。情けない。
実は、今場所は、稀勢の里にチャンスあり、と読んでいた。白鵬の相撲が粗かったからである。
中日、宝富士に呼び戻しをかけた。白鵬、狙っていたようだ。白鵬、充実した横綱ではあるが、その時々に傲岸な態度が見受けられる。中日の呼び戻しもそうである。
呼び戻しに関しては、初代若乃花の呼び戻しにつきる。初代若乃花の豪快な呼び戻し、今場所中日の白鵬の呼び戻しなど、呼び戻しと呼んでほしくない、という程度。
案の定、白鵬、10日目にはとったりを外され豪栄道に敗れる。
白鵬の相撲は荒れている、と私は感じていた。
それ故、稀勢の里にチャンスがある、と。しかし、稀勢の里は敗れた。
白鵬の驕りに乗ずることはできなかった。