幾つになっても気が高ぶる。道とか路とか、と聞くと。

ビート・ゼネレーションとか、ビートニクと呼ばれる時代があった。熱かった。
1955年、サンフランシスコでアレン・ギンズバーグによる『吠える』の朗読が行なわれる。
1957年、ジャック・ケルアックの『オン・ザ・ロード』が出版される。
1959年、ウィリアム・バロウズの『裸のランチ』が出版される。
1950年代後半から60年代にかけてのアメリカは、ビートニクの時代であった。
半月ほど前の新宿武蔵野館には大きなスタンディがあった。

ジャック・ケルアックの『オン・ザ・ロード』。
アメリカ大陸、東のニューヨークから西のサンフランシスコへ横断し、また戻る。途中、デンバーなどへも立ち寄り。

南へも行く。
メキシコ・シティーまで。

ケルアックの『オン・ザ・ロード』、ついに映画化された。

”自由を夢見て、終らない旅へ”、と。

『ゴッドファーザー』、『地獄の黙示録』を撮ったコッポラ、30年以上前にこの作品の映画化権を獲得していた、という。アメリカ人の表現者としては、当然だ。
コッポラ、何度も映画化を試みた、という。さまざまな駿秀を用いた。しかし、踏み切るには至らなかった。そして、ウォルター・サレスに行きついた。
ウォルター・サレス、あの若き日のチェ・ゲバラを追ったロード・ムーヴィー『モーターサイクル・ダイアリーズ』を撮った男である。いい映画であった。何よりも、チェへの愛情が溢れていた。

この作品、多くのビートニクが登場する。主要な人物はこのような人たち。
上段左は、サム・ライリーが扮するサル・パラダイス。この物語の主人公。モデルは、この著を記したジャック・ケルアック。
その右の二人は、ギャレット・ヘドランド扮するディーン・モリアーティと、クリステン・スチュワート扮するその幼妻・メリールウ。。もう一人の主人公である。モデルは、セックスとドラッグに明け暮れるニール・キャサディと、その幼妻・ルアンヌ・ヘンダーソン。
下段の左の女は、キルスティン・ダンスト扮するディーン・モリアーティ、つまりニール・キャサディの二番目の女房・カミール。モデルは、キャロリン・キャサディ。
その右の男は、ヴィゴ・モーテンセンが扮するオールド・ブル・リー。モデルは、ウィリアム・バロウズ。
面白い。

ディーン・モリアーティ、つまりニール・キャサディと、メリールー、つまりルアンヌ・ヘンダーソン。

『オン・ザ・ロード』、アメリカ大陸を横断し、縦断する。
幾重にも。

左端のジャック・ケルアック、タイプライターに向かい、『オン・ザ・ロード』の原稿を叩きつける。

2010年、河出書房新社から、池澤夏樹による個人編集の世界文学全集が刊行された。全30巻。その初っ端の書がジャック・ケルアックのスクロール版の『オン・ザ・ロード』。訳者は、青山南。
この書、400ページ近く、まったく改行がない。時折り入る”注”以外、ベタの文章が続いていく。でも、読みやすい。ひとつのセンテンスが、さほど長くないからだ。アメリカン・ノベルである。

3年前、祥伝社が創立40周年記念企画として、「ガリマール新評伝シリーズ 世界の傑物」というものを出した。その第一冊が、イヴ・ビュアン著、井上大輔訳の『ケルアック』。池澤夏樹が解説を書いている。『オン・ザ・ロード』と併読しろ、と。
それより、スクロール版のスクロールって何なんだ。スクロール、巻物ということなんだそうである。
祥伝社、2010年刊の『ケルアック』の口絵にそのスクロールが載っている。このような巻物なんだ。
なお、下の写真に写っている男たちは、左からハル・チェイス、ジャック・ケルアック、アレン・ギンズバーグ、ウィリアム・バロウズ。1944年、NYマンハッタンで写されたもの。
ギンズバーグやバロウズは知っているが、ハル・チェイスってどういう男なんだ、と思っていた。
『オン・ザ・ロード』の中にハル・チェイスについてのこういう記述がある。
<ハルは痩せがたで髪はブロンド、人類学と先史インディアンに興味をもつ男にふさわしく、不思議な呪術師のような顔をしている。・・・・・。しゃべると、震えた鼻声になる・・・・・>、と。
そういう男なんだ、きっと。

やはり、祥伝社の『世界の傑物1 ケルアック』の口絵から。
左のモノクロ写真は、『オン・ザ・ロード』の主人公・ディーン・モリアーティのモデル、ニール・キャサディとジャック・ケルアック。1952年、ニール・キャサディの妻・キャロリンが撮影している。
右のカラー写真は、1975年、ケルアックの墓参りをするボブ・ディランとアレン・ギンズバーグ。
ボブ・ディラン、ケルアックの『オン・・ザ・ロード』に会って人生が変わったそうだ。

なお、すぐ上の写真を撮影したのは、この写真の右から二人目の女、カミール、つまりキャロリン・キャサディ。
祥伝社『ケルアック』の年表によれば、ジャック・ケルアック、1952年の1月から5月にかけて、ニール・キャサディの家に滞在していたそうであるが、その間に、ケルアック、ニールの妻キャロリンとの間に恋愛関係が芽生える、とある。
自由、自由で突っ走っていたんだ。ビートニクの連中は。
70年代に入ると、ビートニク、ベトナム戦争がらみで、反戦のうねりの中に入る。
ダイアン・ディ・プリマ編、諏訪優他訳の『アメリカ反戦詩集』(1972年、秋津書店刊)が出てきた。
グレゴリー・コオソ、アレン・ギンズバーグ、リロイ・ジョーンズ、ゲイリー・スナイダー、・・・・・。
ゲイリー・スナイダーの『拝啓 大統領閣下』。
<ギレアデに爆弾はありません  中共は北米土人ではありません  あなたはサイホーク族を救ったではありませんか  どうか彼らが  北方の滝への道を築くのをやめさせてください  ・・・・・  わたしがサイゴンにいたとき  ・・・・・>、と。


二か月近く前、それまでたまった映画について記し始めた。
でも、8月は広島、長崎の日もあるし、今年はオリバー・ストーンも来ていたし、昭和天皇の戦争責任を追った『終戦のエンペラー』もあったし、それがらみでの山田風太郎のことごともあるし、時折りは休みにするし、ということもあり、長々と続いた。
その間、30本ばかりの映画について触れた。
他のこともある。映画がらみ、ひとまずこれにて打ちあげとする。