自らを信じる男の物語。

昨日の夕刊、朝毎読は一面トップ、しかも紙面の2/3を占める。イチローの偉業、中面でも大きく。さすが、と言うか何と言うか、日経の一面だけは囲みであったが。
今日のスポーツ紙が面白かった。通常、見開き全ペーとは、中面を開いた全ページということである。今日のスポーツ紙、一面と終面を開いた全ページ、いわば逆全ペーという形でイチローを取りあげている。
イチロー、自らを信じる男である。アメリカでは日米通算に云々はある、という。そうではあろう。イチローの上には、ピート・ローズとタイ・カップしかいない。
メジャー最多4256安打のピート・ローズのコメントは、各紙が取りあげている。
イチローの凄さは尊敬に値する。しかし、4000本安打は認めない。王貞治のホームラン記録とハンク・アーロンの記録が較べられないことと同様である、と。日米通算はあくまで日米通算、メジャーの記録ではない、とピート・ローズは言う。
イチロー、おそらく静かに聞いているであろう。その心に4257本の安打を打つ、と決めて。
自らを信じれば、必ずや為る、と。
自らを信じる男、スポーツの世界ばかりじゃない。学問の世界にも何人もいる。
トロイアを追い、発見したハインリッヒ・シュリーマン。「さまよえる湖」、ロプ・ノールを突きとめたスヴェン・ヘディン。明治期、仏教経典、梵語の原典とチベットの仏典を求めチベット、ラサに潜入した河口慧海もしかり。
そして、この男も。
ノルウェーの人類学者、トール・ヘイエルダールである。

トール・ヘイエルダール、こういうことを考える。
ポリネシアの島々には、古くから人が住む。どこから来たのか、と。南米大陸から渡ってきたに違いない、と。

『コン・ティキ』、監督は、ヨアヒム・ローニングとエスペン・サンドベリの共同監督である。

南米大陸からポリネシアまで、約8000キロ、1500年前にどうやって渡ってきたのか。
トール・ヘイエルダール、筏を組んで渡ってきたと考える。

このような筏。
1500年前でも手に入るバルサ材とか松や竹、マングローブなどの昔からあるもので筏を組む。

このような海路をたどる。
ペルーのカヤオ港を、1947年4月28日出港し、8月7日、南太平洋ツアモツ諸島へ着く。4300マイル(約8000キロ)を。

半年ほど前、ベンガルトラと共に太平洋を漂流する『ライフ・オブ・パイ』について記した。トラとの200日を越える漂流譚。
101日間に及ぶヘイエルダールの筏での航海には、トラは出てこない。ヘイエルダールと5人の仲間との物語である。
トール・ヘイエルダールを除き、皆さん学者ではないんだ。チョンボを犯す者もいる。冷蔵庫のセールスマンをしていた太っちょの男がいろどりを添える。

サメにも襲われる。大渦巻きの中にも。唯一の近代的装備の無線機も壊れる。
しかし、それらを乗り越える。60数年前のお話である。
自らの学説を信じ、自らを信じて、古来の材料で組んだ筏で8000キロの大海原を渡ったトール・ヘイエルダール。自らを信じるってこと、信じきるってこと、凄いことだ。
今日、藤圭子の遺体、新宿署から葬儀所へ運ばれた。
葬儀はせず、娘・宇多田ヒカルの帰国を待ち、荼毘にふされる、という。
     どう咲きゃいいのさ この私
     夢は夜ひらく
今日、イチローを考え、その対極とも言える藤圭子のことを思った一日でもあった。