楽しい人生だった、とドロシーは言う。

ハーブとドロシー、ニューヨークに住むオジイちゃんとオバアちゃんのことを記したのは、2年半前。
元郵便局員のオジイちゃんと元図書館司書のオバアちゃん、永年にわたり、自分たちの給料で買える範囲のコンテンポラリー・アートを買い続けている。ミニマル・アートやコンセプチュアル・アート、いってみれば、「何じゃ、これ」、というようなものばかり。しかも、1LDKのアパートに収まるものでなければならない。自ずと、値段の安い無名作家の小さな作品に限られる。
ところが、それが、  こんなことを記していると、終わんなくなっちゃう。2年半前に記したことだし。
その『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』の続編ができた。

『ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの』。
監督・プロデューサーは、前作と同じく、ニューヨーク在住の佐々木芽生。
何しろ、無名の頃にコレクトした作家が、どれほど名をあげ高価になろうとも、1点も売らない。ハーブとドロシーのコレクション、4000点を超えるようになる。ワシントンのナショナル・ギャラリーへ寄贈する。2000点ばかり運びこまれたナショナル・ギャラリーでも、とてもそれほどの数、収容しきれない。
で、こういうプロジェクトも立ち上げる。

上の方に小さく『HERB & DOROTHY 50×50』とある。これ、この映画の原題なんだ。
”50×50”とは、全米50州の美術館へ50点ずつ作品を寄贈するという意。全米50州へ各50点、総計2500点のコンテンポラリー・アートが全米の美術館へ贈られ、送られる。

こういう作品、総計2500点。

ドロシー、「楽しい人生だった」、と話す。

90近いハーブ、だんだん話さなくなっていく。
「何かお話を」なんて振られて、「聞き役も必要だろう」と答えていたので、頭は充分機能していた。しかし、ついに別れの時が来る。ハーブ、年も年だから、まあ十分であろう。
残されたドロシーは、まだ80前、元気である。「元公務員として、祖国にプレゼントできて嬉しいわ」、と言っている。
そればかりじゃない。
ドロシー、実は、50点ずつ寄贈した全米50州の美術館の対応ぶりをチェックしているんだ。インターネットを通じて。きちんと対応していない美術館へは、注意を与えている。
だんだん寡黙になっていき、この世から去っていった男・ハーブに比べ、女性は凄い。
ところで、この続編を作るにあたり、監督兼プロデューサーの佐々木芽生、インターネット上で製作費の支援を求める”クラウド・ファンディング”を行った、という。
日米915人の人たちから1463万円の支援金が届いた、という。
その一部も使い、この映画の日本公開に合わせ、先般、ドロシーが来日した。ドロシー、吉野家の牛丼をテイクアウトし、上野公園で食べたそうだ。以前、ニューヨークでも吉野家の牛丼を食べていたドロシー、それが望みであった、という。
凄いよね、女性は。