諸l国漫遊だ。 石田宏 スケッチ展(続き×2)。

昨日は少し飲みすぎ(外でなく家で)、ブログお休みとした。水がわりにビールを飲む石田宏のようなことはできないが、家で飲むと、ついついとなる。困ったものだ、と思っている。
「石田宏 スケッチ展」、あと暫らく。
フレンチでの飲み会の折り、「ここには一体、何枚ぐらいあるのだ?」、という声が出た。「約250枚ほど展示してある」、という。「ここ12〜3年の間に描いたものだ」、と石田はいう。そして続けて、「この12〜3年の間に描いたものの20分の1ぐらいなんですが」、とも。
ナントー、20分の1が250枚ならば、その間に5000枚ぐらい描いたことになる。来る日も来る日も、毎日1枚以上描いていたんだ。平均すれば。小さなスケッチとはいえ、凄い。
飲み会では、石田宏展のことばかりでなく、「どうぶつ社の36年」フェアにも話題は飛んだ。リタイアするまでは出版社に務め、ハイブラウな雑誌の編集長もやっていたY.I.から、「どうぶつ社で最も売れた本は?」、という声があった。「『結婚の起源』という本」、と久木亮一。
「万はいった。5回か6回増刷したので」、と久木は言う。「5回も6回も版を重ねて万か」、と言うと、「オレんところのものは、重版は1000とか2000という数だからな」、と久木。36年もの間、続けてだ。これも凄い。エライもんだ、とつくづく思う。
帰って、久木が作った「どうぶつ社の36年」のコピーを綴じたものを見た。『結婚の起源』翻訳書なんだ。訳者は、あの自ら”絶滅危惧種”と宣っているサル学者の井沢紘生と熊田清子。1983年に刊行されている。久木作成のコピーには、”東京ディズニーランド開園”、となっている年。
それより、その上にこういうものが載っている。複写する。

字が小さくて読めはしないが、何と、丸谷才一、木村尚三郎、山崎正和、日本を代表する知性3人による鼎談書評だ。何と豪勢な。その横には谷村志穂の書評もあるが、これはオマケ。それにしても、日本の知性がどうこうという書、世のため人のための、凄いものに違いない。お国のためになってんだ。それで、万か。ウーン。
ホント、宮内庁の人、来春の園遊会には、久木のこと、頼むよ。よろしく。
少し横道に逸れた。石田宏のスケッチ展に戻る。
今日は、浅草と千住。
これこそ石田宏の最も得意とする分野。石田の魅力が最も感じられる絵である。居酒屋がふんだんに出てくる。

浅草である。
2枚のパネルに31点のスケッチ画。

こちらのパネルには、浅草駅、駅地下街の立ち食いソバ屋や居酒屋、伝法院通り、吾妻橋。

こちらには、花屋敷通り、初音小路、六区、奥山、六区裏通り。観音さまへ向かって、仲見世の左手側の街。

左上は、ひさご通りの提灯屋。その下は、初音小路。”初音通商店街”の字がボーと霞む。中央は、花屋敷通りの「芳野屋」。
ここからは、20枚余のコピーを綴った石田宏のページ物の記述を引く。数多くの現場を踏んでいる石田宏の記載、臨場感あふれるもの。さすが、「居酒屋の帝王」。
現代の水戸黄門であるさすらい人・石田宏、居酒屋の帝王でもある。しかし、伊達や酔狂で酒を飲んでいるわけじゃない。観察も鋭い。その記述、正確無比。だから、引用。
「芳野屋」については、こう記す。
<老夫婦で営む食堂であるが、ここのかき氷は日本一であるとの評判もある。食べてみたい誘惑に駆られたが、・・・・・ビールを選択することにした。親父さんは数年前から歩行難儀となって、客と冗談話をするのが今の仕事である。寡黙な奥さんがせっせと働く>、と。
ウーン、よく分かる。目に見える。
オッと、スケッチのことを忘れちゃいけない。
中央の2枚のスケッチは、いずれも「芳野屋」。下の壁には、ビール600円、ライス200円、中華ソバ500円、おでん500円、玉子丼500円、というメニューが貼られている。何とユニークなラインアップ。さすが、浅草。いいねー。
その右下隅、”冷し中華”の貼り紙が見える店は、奥山の「まえだ食堂」。次にも出てくるので、「まえだ食堂」についてはそこで。

少し下へ下がる。
左は、初音小路。石田の記述。
<藤棚で全面覆われている変な小路である。かって隣接のひょうたん池に藤棚があり、・・・・・、新世界と楽天地になった。・・・・・新世界はその後場外馬券売り場となり、すぐ裏手の初音小路は、競馬開催日、競馬新聞片手のおっさんたちで賑わう>、と。なーるほど。
その右は、奥山の「まえだ食堂」。石田のページ物には、こうある。
<「まえだ食堂」は、明治の時代からの食堂である。震災にも戦災にも耐え、縁起の云い店だと評判になったそうだ。・・・・・代々受け継がれてきた所謂「百年食堂」ではある。店では人力車を引く半被をまとった青年が二人、飯をかき込み中である>。
後ろの部分の記述は、上のスケッチのこと。なお、その左は、木馬館。

さらに、その下。
左側は、六区。石田の記述。
<六区は大きく変わろうとしている。・・・・・。廃業した古い木造飲食店には雨凌ぎのシートがかぶせられ、巾一杯に自販機が並んでいる。・・・・・>、と。上のスケッチのことである。
下は、六区「東洋館」。
<ストリップで名を馳せたフランス座の跡にある。六区唯一の演芸場である。・・・・・>、とあるが、あと1館、「浅草演芸ホール」がある。さしたることではないが。
中央下の方は、六区裏通り「ヨシカミ」。
石田宏、こう記す。
<老舗の洋食屋さんである。厨房は客席に大きく開かれている。・・・・・客の注文があると、一斉に行動を開始し作業を分担、ほぼ一斉に作業を終えて、・・・・・連携は見事で、厨房はあたかも舞台の如くである>、と。確かに、そう。的確だ。
浅草の洋食屋では、永井荷風が贔屓にした「アリゾナ」が仲見世のすぐ近くにある。書名は忘れたが、いつか嵐山光三郎は浅草の洋食屋として、この「ヨシカミ」と「リスボン」を挙げていた。「リスボン」は、「ヨシカミ」の近くROXの脇にある、洋食屋というより大衆食堂といった店。
松竹梅でいえば、アリゾナが松、ヨシカミが竹、リスボンが梅、といったところ。
私は3店ともに行っているが、最も多く行っているのは、洋食屋というよりは大衆食堂というのが相応しいリスボンである。

左上は、浅草寺一山支院。石田宏、こう記している。
<震災で焼失した一山の支院を集めた団地である。RC造2階建て、芸大の岡田信一郎・捷五郎兄弟の設計になる。その後、殆どのの支院ではRCの上に木造を一層継ぎ足して、今の姿になっている>、と。
ンッ、何じゃこれ。居酒屋の記述とは少し異なる。どこやら無機質。RC造がどうとか、と。
実は、飲兵衛、ノンベーの石田宏、建築の専門家なんだ。つい何年か前まで、スタッフ200人の建築設計事務所の会長をしていた。設計事務所で200人の人を抱えるのは、まあ大きいところのようだ。その親分が、居酒屋の帝王というのも面白い。
その下は、仲見世。
”無断でかつらをかぶらないで下さい”なんて書いてある。
右は、浅草駅の地下街だ。立ち食いソバ屋や居酒屋「福ちゃん」。
石田宏の記述を引こう。建築はどうあれ、居酒屋、立ち食いソバ屋の石田だから。こうである。
<浅草駅 地下街 立ち食いソバ 人の歩く通路を、犯しきらずに、きわどく犯す。立ち食いソバ営業の鉄則である。その際どさの上に、安価なソバの提供が可能となるのである。立ち食いソバの王道を行く店といっていいだろう>、と石田は記す。
凄いと思わないかな、この考察。ノンベーの石田宏、思索する経済学者であるのかもしれない。
その右のスケッチは、浅草駅 地下街の居酒屋「福ちゃん」。
<幅広い客層を迎え、特色を出さず、なんでも提供する。そう言う変哲の無い店こそ、この地下街に相応しい・・・・・と、思う店である・・・・・・>、との石田の記述。

吾妻橋近く。
中央下は、神谷バー。電気ブラン、旨いものではない。しかし、そのブランド力は凄い。何時も繁昌している。
その右下は、アサヒビールのアレ。石田の記述を。
<生ビールならここ。建物は外観も内部空間も・・・・・。・・・・・、前と打って変わってケバい建物に変貌した。仏人デザイナーが黄色いウンチを頭上に掲げてしまったのである>、と記されている。
そうだよな、アレは。
なお、左側は、ホッピー通りである。
<同じ樣な店が軒を連ねるホッピー通りの店である。店先に席を占め、徐々に暗くなる夕暮れを楽しむのは悪くない>、と石田は記す。
上のスケッチは、「正ちゃん」。下の”もつ煮込み”、”ホッピー”と書いてある店は、「鈴よし」。

千住である。
2枚のパネルに32点のスケッチ。
千住元町、千住桜木、千住中居町、千住寿町、千住大門、千住本町、千住大川、千住曙町。古くからの宿場町・千住は、多くの顔を持つ。


中央上は、千住中居町のNTT千住ビル。
石田の記述を見よう。
<NTT千住ビルは昭和4年、逓信省山田守設計のビルである。その後の仕事と違い、控えめに丁寧にデザインした佳作である。・・・・・>、と石田は記す。ノンベーでなく、建築家の目で。
右は、千住寿町の大黒湯。左は、千住大門の「双子屋」。その下、チラとしか見えていないが、「朝日食堂」。石田のページ物には、こういうことが記されている。
<「朝日食堂」は普通の実直な食堂であるが、昼からの居酒屋でもある。つまみになりそうなメニュウが豊富で、昼の1時に居合わせた客の10人は、全員酒を飲んでいた>、と。
石田もその一人であるが、凄いよな、やはり。焼酎のお湯割りを多少飲んだぐらいでノビてしまう私など、反省しないといけないな。

右上は、千住大川の菊屋。
荒川土手脇のラーメン屋だそうだ。たった6席の店だが、そのメニューはすさまじい、と石田は書いている。
その下は、千住曙町。中央部は、千住本町の勝専寺。いずれも、長くなったので説明は省く。
それにしても、浅草と千住、とても面白い町。浅草ではたまに、千住では希に、飲むことがある。
私が知る限り、東京で一番安い飲み屋があるのは千住である。千葉の田舎よりも安い。ごく希に千住で飲む。

石田宏スケッチ展、市ヶ谷のビストロ・カシーヌで、12月1日まで開かれている。
市ヶ谷駅から徒歩5分。江上料理学院ビルの地階である。ディナーはまあまあな値段であるが、ランチはお手頃な値段である。料理は美味い。石田宏のスケッチ画は素晴らしい。
訪れてみては、如何。