稀勢と奨菊。

面白く、見応えのある場所であった。秋場所、今日、千秋楽。
綱取りの日馬富士、大関取りの鶴竜は、序盤で崩れた。中盤まで独走していた白鵬も、終盤、連敗を喫した。躍り出たのが、稀勢と奨菊。いや、今場所は、大関取りがかかっているから、奨菊と稀勢、と書くべきか。いずれにしろ、琴奨菊と稀勢の里。
何日か前、「秋場所、トテモ驚くべきことが」、と記した臥牙丸も、終盤には上位力士と合わされ、脱落した。稀勢や奨菊との割りを組まれ、敗れた。大関・把瑠都には、圧勝したが。臥牙丸、今日、敢闘賞を取った。今場所の臥牙丸、たしかに様変わりした。
それはともかく、俄然面白くなってきたのは、12日目から。

中日まで、土つかずで8連勝の稀勢の里、9日目からは3連敗していた。そして、この日、白鵬とあたる。
稀勢、白鵬とあたると燃える。双葉山の69連勝に迫っていた白鵬の連勝を止めたのも、稀勢の里。この日も、力強い相撲を取った。白鵬を圧倒する。

稀勢、この日まで全勝の白鵬を、小手投げで破る。やったぞ、稀勢。さすが、稀勢。

その翌日、13日目、琴奨菊が白鵬とあたる。白鵬キラーの稀勢の里と異なり、琴奨菊、白鵬とは極端に分が悪い。
しかし、琴奨菊、この日は違った。右差し、左おっつけで、がぶり寄る。

琴奨菊、白鵬を寄りきる。白鵬、2連敗を喫する。やったぞ、奨菊。いいぞ、奨菊。
大関取りの琴奨菊、この日まで、直近3場所33勝の数字まで、あと2勝と迫っていた。これで、大関取りまで、残り2日で、あと1勝となる。
稀勢と奨菊が、場所を盛りあげる。

その両者の割りが組まれたのは、10日目だった。
この日まで、稀勢と奨菊、共に8勝1敗。両者共、負けるわけにはいかない。

取り組み前、土俵下の稀勢と奨菊。
二つの映像がだぶっているが、映像が切り替わる瞬間にシャッターを切ると、こうなる。狙って、撮ることができるものではない。もちろん、偶然。しかし、北斎漫画のよう。そんなことより、

この両者の対戦、今まで、どういうわけか、琴奨菊の方が、分がいい。
白鵬には、あれだけ闘志を燃やす稀勢の里、琴奨菊には、飲まれているように思える。不思議だ。

この日も、琴奨菊が、左前まわし、右おっつけで寄りたてた。

琴奨菊、がぶって寄りきる。
実は、この日の一番、琴奨菊にとっては、もの凄く大事な一番であった、と私は思う。
琴奨菊、今場所、12勝3敗で、来場所の大関昇進を確定した。直近3場所で、33勝を挙げた。先場所、1勝に泣いた大関の座を射とめた。稀勢の里とのこの一番に勝ったればこそ、33勝に届いた。
稀勢の里にとっても、大きな一番だった。この一番には敗れたが、それが、稀勢の里の闘志に火をつけた。稀勢、この後、すべて勝ち、12勝3敗で場所を終える。来場所は、稀勢の大関取りの場所となる。
やってくれ、稀勢。オレは、それを、待ってるぜ。いや、私ばかりではない。日本中が、それを、待っている。
魁皇の引退で、横綱、大関から日本人力士の名が消えた。それを、1場所で、琴奨菊が埋めた。琴奨菊の大関昇進、私も嬉しい。その大関の座、何としても、稀勢の里にも、と相撲好き誰しもが思っている。しかし、舞の海は、勇み足を犯した。
取り口の解説では、冷静なことを言う舞の海、12日目の稀勢の里が白鵬に勝った一番の後、こう言っっていた。
このまま、琴奨菊と稀勢の里が、千秋楽まで勝ち続けていけば、両力士の大関同時昇進もあっていいのじゃないか、と。如何に何でも、これは言いすぎ。勇み足だ。稀勢の里への大関待望論、いかに強くても。稀勢ファンの私でも、そう思う。
稀勢の里、今場所は12勝、前場所は10勝だ。しかし、前々場所は、8勝しかしていない。直近3場所の勝ち星合計、30勝である。大関昇進の暗黙の了解事項、直近3場所の勝ち星33勝には、3つも足りない。これで昇進させたら、示しがつかなくなる。
稀勢には、来場所頑張ってもらう、これが正解だ。

今日、千秋楽の東方三役そろい踏み。
扇の要に白鵬。左に豪栄道、右には大関昇進を決めた琴奨菊。
豪栄道、今日は稀勢の里に敗れたが、今場所10勝を挙げた。豪栄道、稀勢の里や琴奨菊とは同世代。稀勢や奨菊に負けてはいられない。早く三役へ戻れ。そして、大関を狙え。

西方三役そろい踏み。
扇をひっくり返した要に稀勢の里。左に日馬富士、右には把瑠都。

場合によっては、白鵬、琴奨菊、稀勢の里の巴戦になるかと思われた優勝争い、終わってみれば、白鵬が制した。稀勢と奨菊戦での敗戦のみで、13勝2敗。
やはり、白鵬だった。順当だ。稀勢と奨菊、奮闘したのだが。
千秋楽、結びの一番を裁くのは、立行司、35代木村庄之助。この一番にて定年となる。最後の裁きだ。木村庄之助、相撲界に入り49年になる、という。
中学を出た後、すぐに入門した庄之助、十両格の行司になるまで22年かかったそうだ。半世紀近くに及ぶ行司生活、修業と辛抱の時間であったらしい。相撲というもの、力士ばかりじゃなく、さまざまな人生模様を織り込んでいる。面白いものだ。
オッと、忘れるところだった。あのやせガエル・隆の山、5勝10敗で今場所を終えた。来場所は、十両へ落ちる。しかし、幕内で5勝も挙げたとは、大したもの。序盤で5連敗した時には、全敗してもおかしくない、と思ったもの。
大関争いなどとは別次元であるが、やせガエル・隆の山には、また、幕に戻ってきてもらいたい、と思っている。面白いもの。しかし、やせガエル・隆の山、果たして幕へ戻れるか。はなはだ心もとない。十両でもやれるのか、という身体だもの。
今場所、とても面白かった。久しぶりの面白さ。