稀勢の場所。
大相撲平成28年7月の名古屋場所は、稀勢の里のために用意された場所であった。稀勢の里の綱取り場所であった。
初日、日本相撲協会理事長・八角の挨拶。すぐ後ろに稀勢の里。
場所前、稀勢の里はこう語る。
続けて、こうも。
4日目、土俵下の稀勢の里。
ここ1、2場所の稀勢の里が見せる口角がやや上がった微笑。私は、「キセノックスマイル」と呼んでいる。
9日目、この日の解説は北の富士。話は当然、稀勢の里の綱取りに及ぶ。
北の富士の場合、横綱昇進前の3場所の成績はこのようなものであった、という。昇進前、直近2場所は、共に13勝2敗の優勝である。
が、今場所の稀勢の里には、初めての優勝でも綱が用意されていた。
北の富士が綱を手繰り寄せた昭和45年初場所の星取表。
46年前である。栃東(先代である)から玉乃島まで懐かしい名が並ぶ。特に玉乃島。柏鵬時代に続く北玉時代を築いた。が、玉乃島は急死する。巡業先でライバル急死の知らせを聞いた北の富士の号泣が忘れられない。
この日、稀勢の里は照ノ富士に勝ち8勝1敗。
同じ日、なんと白鵬が勢に敗れる。
右足親指を土俵に突き立てた。これが今場所その後の白鵬の相撲を狂わせる。稀勢の里にとっては、願ってもない状況となった。
さらに、日馬富士も嘉風に敗れ2敗に。
嘉風、ガッツがある。切って縫った瞼であるが、常にガチンと当たっていく。この日もそう。で、日馬富士を屠る。
これで稀勢、一歩先んじる。稀勢の里に追い風が吹いている。
しかし、稀勢の里、翌10日目、松鳳山に突き落としで敗れ2敗となる。
12日目の稀勢の里、力をつけてきた正代を突き出し10勝2敗。
勝ち残りの土俵下、白鵬とのツーショット。
一昨日、13日目は外へ出ていて見ていない。
これは、昨日、14日目の前日のリプレイ。稀勢の里、日馬富士に完敗している。これで3敗。
今場所後の横綱昇進はなくなった。
そう思っていたら、どうもそうではないらしい。理事長の八角や審判部長の二所ノ関が、千秋楽が終わってからなんてことを言っている。
またぞろである。日本相撲協会、どこまで稀勢の里に甘いのか。
稀勢の里を甘やかし甘やかし、結局のところ稀勢の里をスポイルしている。
この日、14日目の稀勢の里、白鵬に押しこまれた。が、ギリギリの突き落としで星を拾った。
千秋楽の今日、花道で出を待つ稀勢の里。
土俵下、控えの稀勢。
白鵬から水をつけてもらう稀勢の里。
大関同士の取り組みであるが、稀勢が勝ち優勝への望みを残す。
右足親指を痛めた白鵬、やはり力が出ず敗れる。
稀勢の里の綱取りの夢は消える。
取り終え優勝を決めた日馬富士もこの表情。
毎日新聞による優勝掲額、もう用意されているんだ。
今場所の星取表。
白鵬の不調が際立つが、大関陣の情けなさ。琴奨菊は休場、カド番の照ノ富士はやっとのカド番脱出、豪栄道は来場所またもカド番。
稀勢の里のみである。大関の体面を保っているのは。それでも綱への道は遠い。
14勝での優勝、13勝での優勝、さらには12勝の優勝でも、とハードルを引き下げても叶わない。
何故か。
綱取りのハードルを引き下げることに象徴されるように、協会が稀勢には甘いからである。それが稀勢の里をスポイルしている。協会ばかりじゃなく日本国民、そのことに気づかなければならない。稀勢のためにも。
すべてが終わった後、解説の北の富士「まだ時間ある?」、と言った。
「あります」とのアナウンサーの声に、「いや、この間落語を聞きに行ったんです」、と語り始める。「落語にも前座から・・・」、「二枚目、三枚目」、「いやウン、二つ目」、「いやそう、そして真打・・・」、と語る。
解ったような解らないような北の富士の言葉であるが、かってのプレイボーイ、遊び人横綱・北の富士の相撲解説、どこか味が出てきた。なんとなしに。
日馬富士、8回目の優勝である。
白鵬一強時代に8回も優勝するなんて、大したもの。
ドーピング問題でIOC、リオ五輪へのロシア選手の参加を各競技団体への裁量にゆだねた。
IOC、判断を避けた。
IOC、プーチンとタイマンを張ることに腰が引けた。プーチンが恐いんだ。
IOC、日本相撲協会と同じく、優柔不断。
腰が引けている。