ビバ エスペランサ!

ついに地上に戻ってきた。700メートル下の地中から。69日ぶりに。
今、NHKで流れたチリのテレビのライブ映像。

今、午後11時少し前、時差が12時間のチリでは、朝の10時56分04秒。もう12人が生還した。
チリの鉱山で、落盤事故が起こったのが8月5日、33人が閉じこめられた。19歳から63歳の労働者33人。生死不明の状況が続く。54歳の男が、リーダーシップをとったようだ。50代半ば、一番力が発揮できる年代、頼りになる年代だ。それにしても、ルイス・ウルスアという名の、この男凄い。
地下700メートルの避難所の、たった3日分の備蓄食糧を20日間に区分けし、皆にそれを守らせた、という。少しずつ食べ、少なくとも、20日間は生き延びる。その間には、必ず救いが来る、希望を捨てるな、と皆に言い聞かせたのだろう。規律が保たれた。
鉱山、地中にもぐって働くというのは、落盤に限らず、爆発もあれば、出水もある。常に、死と隣りあわせ。通常の労働者と異なり、仲間意識は強かろう。リーダーの男の発する言葉、その重み、弥増すだろう。希望を捨てぬリーダーなんだから。
リーダーの男の読み、正しかった。17日後の8月22日に、地上と連絡がつくのだから。
NASAの協力もあったし、幸運もあったろう。また、今日、2番目に引き上げられた男が言っていた、”地の底には神さまと悪魔がいるが、オレはずっと神さまの手を握っていた”、ということもあったろう。
20日間の読みが、17日目に。ギリギリ紙一重、と言えば、そうも言える。しかし、希望・エスペランサを捨てなかったリーダーの、そして、その言葉を信じて、ついていった男たちの勝利だ。
8月30日から始まった、救出トンネルの掘削、クリスマス頃には、とのことだったが、大幅に短縮され、今日の救出となった。
救出トンネルの内部の模様、その映像を見た。
ちょうど食道や胃、腸の内視鏡の映像と、よく似ている。カメラがグングン下って行く。505メートル前後のところは、それまでと異なり、岩がゴツゴツしていた。今日に至るには、それも削っていったのであろう。トンネルの直径70センチ、救出カプセルの直径50センチを確保するために。
救出の順番もよかった。
まず1番手は、経験豊富で、身体も頑健な男。33人の中のサブリーダー的な男が選ばれた。万が一、不測の事態が起こっても、それに対応できる理性も持っている男が、先陣を務めた。
そして、しんがりは、54歳のリーダー・ルイス・ウルスアが務める、という。彼はまだ、地中にいる。すべての仲間が、救出されるまでは。
救出作業、初めのうちは、1時間に1人、といったペースであったが、だんだん速くなっている。この調子では、明日の昼ごろには、ルイス・ウルスアも地上に上がってこれるだろう。それよりも、今のウルスアの心中、生還の喜びよりも、仲間を救った充足感で充たされているのじゃなかろうか。
ビバ エスペランサ!、だ。