感動から現実へ。
仲間すべてを送り出した後、最後に上がってくる予定のリーダー、ルイス・ウルスア、今日の昼ごろか、と思っていたら、朝10時前には上がってきた。どんどんピッチが速まっていたようだ。
長く地中に閉じこめられていた、チリの鉱山労働者33人のすべてが、救出された。おそらく、今年一番のニュース、全世界の人々が、皆同じ思いを持って、テレビを見ていたのではなかろうか。オバマをはじめとして、何億、何十億の人たちが。
感動の第一幕は終わった。
映画化も決まった。出版のオファーも多いだろう。ギリシャからは、33人全員を、旅行に招待するとの話もある。スペインのどこかのサッカーのクラブチームからは、確かゲームに招待、との話もあった。彼ら、世界中に感動を与えた英雄なんだから。
しかし、いい話ばかりじゃない。63歳、最年長の男は肺炎に罹っている、という。2番目に上がり、神さまの手をずっと握っていた、と言っていた元気そうな男も、肺炎だそうだ。19歳、一番若い男は、あまり口をきかないそうだ。彼ばかりじゃなく、33人すべての人、今後、PTSDになる恐れもある。
感動物語である第一幕の後、今後の現実、という第二幕の幕が上がる。
今回落盤事故が起こったサンホセ鉱山、以前にも落盤事故があり、その管理体制、問題があった、という。責任問題が出てくる。33人への補償の問題も出てこよう。しかし、今回の事故で、この会社、倒産するかもしれない、という。いったい今後どうなるか。これも現実。
33人中、ひとりだけボリビア人がいる。今回、初めて知ったが、チリとボリビアには、国境問題でゴタゴタし、国交がない、という。そのボリビアから出稼ぎに来ていた、という。チリの高賃金に魅かれて。そのチリの鉱山労働者の月収、1000ドルだという。死と隣り合わせの、過酷な労働の対価が、日本円にすれば、月8万円ちょっとだ。これも、世界の現実。
このサンホセ鉱山も、銅鉱山だそうだが、今、チリから最も多く銅を買っているのは、中国だという。2位のアメリカの4倍も輸入しているらしい。日本もチリの銅鉱山の権益は持っているそうだが、中国は新規開発鉱山の権益も狙っているそうだ。世界の先進国や勢いのある途上国による資源獲得競争、これも現実。
そういえば、33人を引き上げるデカい重機は、中国製のものだという。アメリカは、NASAのノウハウばかりでなく、掘削のスペシャリストをアフガンから呼び寄せ、完璧な仕事を為した。日本は、日本人宇宙飛行士が使っている、JAXAの防臭抗菌肌着を200着提供した、という。
日本では、あまり報じられていないので解からないが、おそらく、ヨーロッパの国々も、それぞれ得意分野の支援を行っていたに違いない。表には出さないが、先進各国、さまざまな思惑があった、と思われる。もちろん、第一義的には、人道的な思いがあったことには、違いはないが。だが、現実の世界では。
長い間、地中に閉じこめられていた33人の労働者を送り出した後、地中に下りていた救助隊(6人が下りて、サポートしていた)、任務完了のプレートを掲げている。
この映像を撮ったカメラは、おそらく、日本製。何故なら、救出まで、中の映像を撮るため下ろされたカメラは、日本製だったから。だから、これを撮ったカメラもそうであろう。防臭抗菌肌着ばかりじゃなく、今回の救出劇には、日本の製品も大いに関わった。脈拍や血圧を測る機器も日本製。それがどうした、ということもあろうが、これも現実。
感動のステージは、終わった。今後、さまざまな現実のステージ、現実の問題が出てくるであろう。