藤田・早見・戦争画。

先帝・上皇と上皇后の世界平和を願うお気持ちを、新しい天皇皇后も引き継がれた日本は平和な国である。
ベルリンの壁崩壊30周年のドイツ、国内の旧東西格差が埋まらず平和とは言えない模様。不満を抱く人たちが右翼政党の支持基盤となっている。旧東側の国々ばかりじゃなく、ヨーロッパ中に平和を乱す動きが蠢いている。あちこちの国に旧ナチもどきの右翼、右翼が生まれている。ヨーロッパでこれなら、他は言わずもがな。世界中が平和とは逆方向に進んでいる。世界最強のアメリカはあの男の登場以来、もちろんそのトップを走っている。逆方向への。
平和な国は日本だけってことになるのかな。世界平和を願う、心優しい天皇皇后両陛下がおられるのであるから。
3日前、杉浦の作品集の封書が送られてきたその何日か前、吉岡から封書にしては分厚い郵便物が届いた。吉岡も杉浦と同じく早稲田美研60-70の古い仲間である。
中を開けると、見たこともない雑誌が出てきた。
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これである。
『游魚』(西田書店 2019年11月11日刊)。
<言葉とヴィジュアルの交差>とサブにある。
美術論、芸術論と、モノクロが多いが写真ページを多く挟んだ書である。No.7とあるから第7号なんだ。売れることなど眼中にない、という突っ張った誌面が300ページ弱続いている。
吉岡の手紙が挟まれている。
ブログを拝読しているが、腰に続いて足の骨も折れたとのこと、・・・。気晴らしにと思い、いや気晴らしにならないかもしれませんが、丁度出た雑誌に私の原稿が掲載されていますので、退屈な時に・・・、・・・、と記されている。
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早見堯(早見のことも今まで何度も取りあげた。早見堯、吉岡の筆名である)藤田嗣治の戦争画「神兵の救出到る」をめぐって。
「循環する眼差し」の①のようだ。
早見堯(吉岡)からは、時折りメールが来る。
昨年3月に来たメールは長いものであった。あまりに長いので文字数を数えてみたら、55字づめで60行前後あった。トランプと金正恩の米朝会談の話から藤田嗣治の戦争画「神兵の救出到る」に移っていった。藤田嗣治の戦争画は私も近代美術館などで見ている。その少し前、肺炎で12日間入院してピョンチャン五輪を病院のベッドで見ていた私、退院後、「病床五輪」を連載していたが、その中で藤田の「神兵の救出到る」についての早見堯の論考を紹介している。
たしか、それ以前、2015年の早見堯の古いブログ「見ることの誘惑 終わりなき眼差し」の早見の「神兵の救出到る」の記述も紹介したように思うが。
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藤田嗣治の戦争画「神兵の救出到る」は1944年の作である。
客観的に見て、太平洋戦争・大東亜戦争での日本の敗戦が決まっていた頃の作。
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早見堯、以前のものとは別の角度から藤田嗣治の戦争画「神兵の救出到る」を考え、問題を絞って書き直した、と手紙にある。
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その理解を助けるためにとして、プリントアウトした紙片が6枚同封されている。
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画面の組み立て、矩形の云々、・・・。
画面左に日本兵。
欧米列強に虐げられてきたアジアの国々から、それらの国々を解放するんだ。欧米列強を追い払う。大東亜共栄圏を目指す。
大東亜。
アジアの国々の欧米の植民地からの解放、言葉だけはきれいごと。日本は石油が欲しかった。
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早見堯、「神兵の救出到る」の画面をあちこちから見つめ直す。
日本の神兵が、オランダ人に捕えられていたジャワ島の少女を救出する。マリアを救出する天使ガブリエルのように、と。
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藤田嗣治の戦争画の代表作である1943年の「アッツ島玉砕」と会田誠の2001年の「ジューサー・ミキサー」。
藤田嗣治の戦争画は、現代の作家にさまざまな影響を与えている。
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「神兵の救出到る」と「受胎告知」との関連性。
鉛筆で矢印が引かれ、「猫」と記されている。
<キリスト教の「受胎告知」の図像では、猫はしばしばマリアにとりついている悪魔のメタファーとして描かれている>、と早見堯。「神兵の救出到る」にも猫がいる。<そうだとしたら、眩惑的なここでの猫は、実はオランダ人の化身だということになる>、と早見。
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表4の下部。
早見堯の他、私が知る名は金石範ただひとりであった。
巻末の著者プロフィールによれば、皆さまそれぞれに活動されている模様。
谷川渥の聖地紀行は「エルサレム行」。ああ、エルサレムへも行きたかった。もう難しいが。
安達史人の「天皇学入門」が面白かった。「われわれ日本人は天皇をどう捉えてきたのか」、と。