巨大なクモ。

ルイーズ・ブルジョアが死んだ。
彼女の名に馴染みはなくても、六本木ヒルズにある巨大なクモの彫刻を見ている人は多いだろうし、そういえば、そんな写真を見たことがある、という人もいるだろう。
「ママン」と題する、そのデカいクモの像を創ったのが、ルイーズ・ブルジョアである。フランス生まれのアメリカ人。1911年生まれの98歳、とは少し驚いた。
節々が曲がり、長い8本の足で立つブロンズのクモ、10メートルぐらいある。一度見たら、忘れられない。実は、私は、彼女の作品はこの「ママン」というクモの作品以外、見たことがない。コンテンポラリー作品は、あちこち幾らかの美術館で見てきたが、彼女の他のもの、記憶にない。このクモ以外。
先ほど、幾つかの作品の映像を見てみたが、ルイーズ・ブルジョアの作品、立体にしろ平面にしろ、難しい作品である。デカさに驚くクモのようなものとは、繋がりは感じるが、難解。「私の作品は、子供時代のトラウマが制作のイメージになっている」、と語っているようだ。
このクモの作品、「ママン」も、お母さん。そのようなイメージと通底するのであろう。
この巨大なクモ、六本木ヒルズを含め、サンクトペテルブルグ、ハバナ、ソウルなど、世界に6体ある、という人がいる。ニューヨークにある、という人もいる。カナダやスペインにある、という人もいる。パリやベルリンで見た、という人もいる。
私は、2年半前、ロンドンのテート・モダンで見た。

テート・ギャラリーの近現代美術部門を、ミレニアム事業の一環として造られたテート・モダン、素晴らしい美術館である。
これは、テート・モダンのバルコニーから下を写したもの。右下にルイーズ・ブルジョアのクモの作品「ママン」がある。周りを歩く人から見ても、その大きさが分かる。
テート・モダンのあるテームズ川の南側サウス・バンクは、元々工場や倉庫などがあったところ。テート・モダンも発電所の跡に造られた、という。なお、テート・モダンの開館にあわせ、テームズの向う側、セントポール寺院側から架けられた吊り橋が、ミレニアム・ブリッジである。
ところで、2年半前にはテート・モダンの前に据えられていた、ルイーズ・ブルジョアのクモの作品「ママン」、今でもあるのかどうかは、分からない。ひょっとすると、テート・モダンの所蔵品ではないのかもしれない。世界中の都市を回っているのかもしれない、とも思える。
私は、ロンドンで見たが、ニューヨークで見たとか、サンクトペテルブルグで見たとか、パリで見たとか、ベルリンで見たとか、という人がいるということは。
実は、このクモの作品「ママン」、1年ちょっと前、ソウルでも見た。

ソウルのサムスン美術館の館外に設置されていた。ソウルには、大きなクモばかりでなく、少し小さなクモも、2体が並んでいた。
この日は、雨が降っていた。巨大なクモと少し小ぶりなクモ2匹、雨に打たれていた。雨に濡れた路面には、2匹のクモの影が映っていた。
ルイーズ・ブルジョアのクモの作品「ママン」、六本木ヒルズのクモも、サムスン美術館の2匹のクモも、パーマネント・コレクションである。
ということは、世界中に少なくても4匹の巨大なクモ、「ママン」がいることになる。現実には、6〜7匹いるのであろう。