北野マジック。

それにしても、フランス人は北野武が好きだな。ぞっこん惚れきっている。
今日、フランス文化省は、北野武に、芸術文化勲章の最高章であるコマンドゥールを授与した。日本の映画監督としては、フランス人好みの大島渚や吉田喜重でも、コマンドゥールよりはランクが下がるオフィシエしか授与されていない。
北野武は、10年ほど前、オフィシエよりひとつランクが下のシュバリエ勲章を受けている。少し譬えが違うが、日本の文化勲章が、文化功労者に選ばれた後、5年だか10年だか後に選ばれるようなものらしい。だから、オフィシエ勲章を飛びこして最高章のコマンドゥール勲章になったらしい。
大島世代の私としては、ああ、大島が越されたか、という思いはあるが、仕方ない、当然であろう。大島渚は、病気になったし、北野武は、ますます大きくなった。文字通り、世界の北野武となったものな。
今まで、ずいぶんフランスには行った私には、その映画作品ばかりでなく、フランス人は、北野武のあの顔が好きなんだ、ということは感じていた。しかし、どうも、その顔、面貌ばかりじゃなく、その中味、北野武の頭の中に参っているようだ。北野武、只者じゃない、凄いヤツだと。
今日、パリでは、北野の作品「アキレスと亀」の試写会が行われ、明日から一般公開されるという。また、明日からは、ポンピドゥーセンターで、北野武の大回顧映画特集が、3カ月余に渉って続けられるそうだ。凄いじゃないか。
と思ったら、さらに、カルティエ現代美術財団の美術館で、北野武の絵画作品の展覧会が開かれる、という。しかも、会期は、6カ月間。これには、凄い、というより驚いた。カルティエは、現代美術に非常に力を入れている。コンテンポラリー・アート、時代の先端を行く美術を後押ししている。
そこで、半年に渉る個展を開く。想像を絶する。
が、北野武の絵は、知っている。10年ちょっと前、「芸術新潮」に、「たけしの 便所の落書き」、という連載をしていたんで。北野武じゃなく、ビートたけしの名で書いていたが。生な色を使った具象画で、つぼを押さえた絵だな、という印象がある。1年余連載していたが、その最終回にこう書いている。
<野球にプロ野球と草野球があるように、「草絵」というのがあってもいいと思う。・・・・・おいらもまだまだ絵はやめられそうにないから、そのうち描きためた「草絵」の成果をひっさげて、再登板することにしようか>、と。
その再登板が、カルティエ財団美術館での、半年間の個展とは。驚きを通り越した。
明日からパリで公開されるという「アキレスと亀」も、絵描き夫婦の話だった。主人公の名は、まちす。漢字だったが。女房役は、樋口可南子が演じた。樋口可南子、渡辺謙の女房を演っても、北野武の女房を演っても、ピタッとくるな。味わい深い。樋口可南子のファンなんだ、私は、単に。
それはともかく、この映画自体は、貧乏絵描き夫婦の愛情物語なんだが、余計なこととは思いながら、北野武、何と思って絵を描いているのかな、と思った。ピカソ風も出てくれば、ジャクソン・ポロックのドロッピング風も出てくる。バスキア風のストリートアートもやれば、具体美術の白髪一雄風のものも出てくる。
北野武、単にコンテンポラリーアートをパロッてるのか、とも思ったが、そうとばかりには思えない。彼の絵を、印刷物の上でだが、何度も見ていると。北野マジックに引っかかる。
その内、ニューヨークのサザビーかクリスティーズのオークションで、奈良良智の絵や村上隆の立体と共に、北野武のタブローが、158万8千ドルで落札された、なんてことがあるかもしれないな、ということは、十分にあり得る。