最強のふたり。

「最強のふたり」なんて、つまらない邦題をつけたものだ、と思っっていた。新聞全5段のその広告のヘッドコピーが、「観ないともったいない!!」。これも締まらないコピーだな、と思っていた。
観ると、これが面白い。広告コピーとしては締まらないが、観ないとホントにもったいない。

エリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュの二人が、共同で脚本を書き、監督した作品。
原題は、”UNTOUCHABLE”、アントゥーシャブル、英語で言えば、アンタッチャブルだ。”触れ得ない”、”不可触”、という意。
フランスの人口は、約6000万人である。昨年末封切られて以来、フランスでこの映画を観た人は、1940万人いる。実に、赤ん坊も含めフランス人の3人に1人が観たことになる。
ホントかよ、と思うが、どうも本当のようである。
昨日の北野武の「アウトレイジ ビヨンド」も、北野武自身は、「これぞエンターテインメントという作品を創ろうと思った」、と言っているが、この「最強のふたり」、この上ないエンターテインメント作品である。フランス人の3人に1人が観ているほど。それほどに面白い。
原題のように、触れ得ないはずの、出会うはずのなかった2人が出会うんだ。
一人は、ハングライダーの事故で首から下が麻痺してしまった白人の男。パリの中心部に住む初老の富豪である。聴くのはバッハやヴィヴァルディ。もう一人は、郊外の狭いアパートに住む黒人の男。仕事がない若い男。ファンクミュージックがお気に入り。
何から何まで正反対、本来なら出会うはずがなかった二人である。演じるのは、初老の白人はフランソワ・クリュゼ、若い黒人はオマール・シー。
この映画、実話に基づいたものだそうだ。
金は有り余るほどあるが、首から下は麻痺している白人男の介護人として、介護の経験もない若い黒人の男が雇われる。何か変わったヤツだから、と。正反対のこの二人、何から何まで正反対なんだが、お互い、認めあっていく。信頼感を増していく、と言ってもいい。

こうなっていくんだ。
だから、あの邦題なんだろうが、やはり、なあー。
まあ、それはいい。とても面白いんだ。何もかも。フランスでは、赤ん坊も含め国民の3人に1人が観た、というこの映画、日本でも相当の人が観た。
今でも、掛かっている。それほどに面白い。
冒頭、白人富豪の高級車・マセラティでぶっ飛ばし、お巡りに捕まる。その時の2人の連携の上手さ。担ぎ込まれた病院での対応。怪しげなタイマッサージの店での2人。どうだってんで、白人富豪にマリファナも吸わせる。2人でハングライダーにも乗る。白人富豪の文通相手との中も取り持つ。
それはある。それはそれで面白い。とてもよくできたエンターテインメント。
それと共に原題に戻る。
”アントゥーシャブル”、”アンタッチャブル”、”不可触”、に。
フランスは、移民に優しい国である。アフリカ系、アラブ系、アジア系、多くの移民がいる。パリの中心部を離れると、そのような人たちが多く住む地域がある。
パリ市内、モンマルトルの近くでも、この春、「写真を撮るな」、と怒鳴られた。見ると、黒人の男だった。確かに、その辺り黒人が多かった。格差の問題、どこにもあるんだ。
この原題、そのことをも暗示している。共同で脚本を書き、監督した2人の男、そのことをも、面白いエンターテインメントの中に包んで、私たちに提示してくれた。
極上のエンターテインメントである。