龍三と七人の子分たち。

お笑い満載のコテコテのコメディーである。
「テメェー、コノヤロウ! 笑わせてやる。笑え、バカヤロウ! オイラの得意なヤクザ映画だ、コノヤロウ! ヤクザつっても、こないだの『アウトレイジ ビヨンド』のようなバイオレンス映画じゃないぞ。バカヤロウ! ジジイヤクザのコメディーだ。コノヤロウ!」ってことなんだな。
北野武、このような映画も撮るんだ。

元ヤクザのジジイがオレオレ詐欺に騙されかける。
元々は誰もが恐れるヤクザの大親分であった”鬼の龍三”だ。引退した今は、大企業のサラリーマンである息子の家で煙たがられている。
オレオレ詐欺でジイイやババアを騙しているのは、暴走族上がりの半グレ、京浜連合の詐欺集団。
”金無し、先無し、怖いモノ無し! 俺たちに明日なんかいらない!!”のジジイ、半グレの詐欺集団に戦いを挑む。「若いヤツらに勝手な真似はさせられねぇ」と。

『龍三と七人の子分たち』、北野武の17本目の監督作である。
ヴェネチア、カンヌの両映画祭では北野武の存在、VIP中のVIPである。特にフランスでの北野武の立ち位置、驚くほど高い。つい10日ほど前にも、シャンパーニュ騎士団から勲章を受けていた。モナコ大公やフランスの政治家に次ぎ3人目の受賞ということで、北野武、羽織袴に威儀を正し首に勲章をかけてもらってた。
北野武の作品、観客動員が最も多かったのは、前作の『アウトレイジ ビヨンド』であったそうだ。東西ヤクザの抗争劇、北野得意のヤクザもの、面白かった。
しかし、北野武にしては珍しくお笑いに徹した本作は、公開1と月少しの5月末で、観客動員120万人を突破した、という。『アウトレイジ ビヨンド』を抜いたそうだ。今日あたりには、150万人となっているかもしれない。
いずれにしろ好評。老若男女、すべての層の人たちから受け入れられている。お笑いの娯楽作品に徹したことにより、今までの北野武ファン以外の層を取りこんだようだ。しかし、「何々が不自然だ」なんて考えるようなやや原理主義的な人たちには、北野映画はお薦めできない。

元”鬼の龍三”の龍三親分、詐欺集団の京浜連合のガキどもをやっつけるために、かってのヤクザの親分衆を糾合する。
龍三親分と七人の子分である。皆さん、それぞれに得意技がある。
新しい組の名称は、一龍会。”一龍”ならばラーメン屋みたいだが、”一龍会”と”会”をつければ、ヤクザの組名となる、と。七人の子分の皆さんも元ヤクザの皆さん、面白い。彼らに扮する役者の皆さんも、長年見慣れたお方が多い。平均年齢72歳。

高齢化社会とオレオレ詐欺をかけ合わせたものには違いない。元ヤクザのジジイ連中と、暴走族上がりの半グレの詐欺集団のガキ連中との世代間闘争でもあるのだから。
さらに、街宣車、馬券、また、”はばかりのモキチ”の棺桶に入った死体、その他、5分に一回は笑わせてくれる。

北野武、己の欲するところに従って歩を進めている。

忘れちゃいけない、主役の龍三親分には藤竜也が扮している。
龍三親分、背中の龍の刺青が自慢であるが、それはそれ。ピンストライプの濃紺のスーツもなかなかのもの。
それよりもネクタイだ。
このネクタイ、これがビシッと決まるのは、龍三親分か一部上場企業の代表権を持つ会長ぐらいであろう。
本作の衣装は、父・黒澤明の薫陶を受けた黒澤和子。龍三親分ばかりじゃなく決まっている。