ピラカンサ。

暫く前から、気になっていることがあった。
週一で行っている学校の近くに、小さな空き地があり、そこに、垣根といえば垣根といえないこともないが、という感じで、何本かの雑木が立っている。手入れなど何もしていない。その中の1本には、赤い実がいっぱい付いている。3メートルくらいある。
なんだ、これは、と思い、万両はもっと小さいはずだが、手入れをしないでおっぽっておくと、こんなに大きくなるのかな。それにしても、デカイ万両だな、と思っていた。それにしても、と思い、一度カメラを持っていき写真を撮った。実は、昨日も学校からの帰り、バス乗り場に行く前に、もう一度撮りに行った。
なんじゃ、これは、と思いながら、何枚かシャッターを押していると、二人連れのジイさんが歩いてきた。同じような帽子を被り、同じようなジャンパーを着て、おまけに腕に防犯何とか、と書いた腕章を付けている。日中、防犯何とか、という腕章を付けて歩いている人なんて、どうせヒマ人だろうし、私も、知らないことを聞くことが恥ずかしい、なんてことは、とうの昔に置き忘れてきた年なので、その二人連れに聞いてみた。
こういう木なんだ。高さ3メートルほどだが、枝分かれし、上の方は、径2メートル以上に広がっている。

「ちょっと、この赤い実がいっぱいの木は、何ていうんでしょうか」、と聞いた。「ああ、これは、ピラカンサスですよ」、と言う。「どうりで、万両にすりゃ随分デカイ万両だな、と思っていたんですが」、というと、「万両は、こんなにならない。万両は、せいぜいこれぐらいですよ」、と腰のあたりを手で指す。
「ピラカンサスは、生長の早い木なんですよ」、と言い、「こいつを切ると、年輪が詰まっているんだ」、とも言う。「アレッ、生長が早いと、年輪の幅が開いてくるんじゃないのかなあ」、と思い、そう言うと、「ウン、まあ、そうだなあー」、と言いつつ、「これは、固い木なんだ」、とも言う。
「この木は、ネジを截ることもできるんですよ」、「樫なんかでも、ネジは截れませんよ。樫の木でネジを截ったって、すぐつぶれてしまう」、と言う。ヘェー、そんなことまで知ってるんだ、このジイさん、と思うが、続けて、「こいつは、いろんな細工ができるんですよ」、とも言う。「そんなに固い木でも、細工がやり易いんですかね」、と聞くと、「ウン、そうだな、でも、細工ができるんですよ」、と答える。
おそらく、丁寧に教えてくれたこの人の言うこと、正しいこともあれば、やや矛盾した思い違いのこともあるのだろう。しかし、勉強になった。解からないことは、聞くもんだ。

その木の下の方。冬枯れの雑草の中に生えている。

上の方の一部。この赤い実は、鳥の大好物だそうだが、ここいらには野鳥もあまりいないのか、ほとんど食べられた痕跡もない。

その一部。10月頃から実が熟すそうだが、それから大分時間が経った今、実は、赤いことは赤いが、少ししなびてきているようにも見える。
帰って調べてみたら、ピラカンサ(Pyracantha)は、バラ科ピラカンサ属、和名、常盤山楂子。庭木や垣根によくある、ごく普通の木なんだ。集合住宅で庭などない、私が知らなかっただけなんだ。ネットでも、イヤになるほど出てくる。
誕生花でも、10月26日、11月23日、11月28日、12月3日、12月8日、とまちまちである。どうも、花卉業者や大手の花屋さんによって、それぞれの日をつけているようだ。
花言葉もいっぱいあった。”燃ゆる想い”、というのが多かったが、”慈悲”、”防衛”、”傷つけないで”、”快活”、”陽気”、”愛嬌”、さらに、”美しさはあなたの魅力”、なんていうものもあった。これは、どうも、サイトを開いている人が、それぞれの印象で付けているものもあるようだ。ピラ(Pyro)は、火とか炎、アカンサス(akanthos)は、刺とか棘、という意だそうだから。
『花の歳時記』(鍵和田秞子監修、講談社刊)では、秋の季語に入っており、<中国名は「火棘」。木の特質や語源を踏まえつつ、これから大いに活用したい季語である>、とし、幾つかの句が紹介されている。少し引くと、
     界隈に言葉多さよピラカンサス     森澄雄
     ピラカンサ祈ることばのひとつづつ   小山遥
     降りぐせの路地に灯れるピラカンサ   桝谷栄子
あの、防犯何とかの腕章を巻いたジイさんにも教えられたし、他の人にも教えられた。