赤いほっぺのフレッシュマン。

週に一度行っている学校からの帰り、若い男と会った。
最寄り駅への無料の送迎バスの乗り場に、いつも見る学生とは、少し違った若者が、大勢いる。学校の名を書いた腕章を巻いた人が2人、一人一人に話かけている。この春からの新入生の説明会か何かがあったらしい。「何かあったら、いつでも私に言ってくださいね」、「もう、おうちは決まったの」、なんて言っている。学校の女性職員らしい人、優しいんだ。
その人に、新入生は何人ぐらい入るのですか、と聞いたら、これから一般入試があるので、まだ解かりません、と言う。彼らは推薦入学で来てくれたんです、と言う。そうか、少子化で大学の生き残りも厳しいものな。それで、バス乗り場にまで、職員を配置してるのだろう。だから、”入った”ではなく、”来てくれた”、という言葉も、思わず出たんだな、とも思う。
すぐ後ろに並んだ男の子に、どこから来るの、と聞くと、茨城の海沿いの町の名を言う。直線距離では、そう遠くではないが、バスや電車を乗り継いで来ると、3時間近くかかる、と言う。じゃあ、下宿するんだ、と言うと、もう、4月からのアパートを借りた、と言う。6畳ぐらいのか、と言うと、そうです、と言い、こちらは、やっぱり高いです。と言う。6万するそうだ。
しかし、アパートには、トイレも風呂も小さな台所も付いているそうで、私の世代が知るアパートのイメージとは、大分異なる。そりゃそうだ、今の時代だものな、と思う。じゃあ、親父さん大変だな、他にもいろいろあるし、と言うと、アパート代と光熱費は、出してもらうことになっていますが、あとは、アルバイトをしようと考えてます、と答える。
グレーのズボンに赤いウインドブレーカーを着ていた、少し背の高いこの若い男の子、頬っぺたが赤かった。純朴そうな男の子だった。
千葉県の学校だから、都会地とは言えないが、それでも、茨城県の海沿いの町に較べれば、東京に近い都会地といえば都会地。4月から、フレッシュマンになる。
そうなりゃ、酒を飲んで騒ぐこともあるし、女の子と振ったり振られたり、さまざまなことがあろう。しかし、茨城の海沿いの町から千葉の学校へ来る、ほっぺの赤い男の子、喫煙所でない所でタバコを吸い、吸殻をポイポイ捨てる学生には、ならないだろうな、と思った。とても、感じのいいヤツだった。
バスを降りる時、4月から頑張ってくれ、と言ったら、ハイ、じゃあまた、と言っていた。週に一度しか行かないが、小さい学校なので、また会うかもしれない。
学校の授業など、右の耳から入っても、左の耳へすぐ抜ける、という感じで、少しも身には付かないが、こういう若い連中と触れあえるのは、楽しい。具体的には、何にもできないが、彼らの背中、グイグイ押してやりたくなる。
そういや、立松和平が死んだ。
身体には自信がある物書きだと思っていたので、62歳での死には、驚いた。立松の栃木訛り、茨城訛りと同じく、お尻があがる、北関東独特の訛り。真似ることはできないが、聞けばすぐ解かる北関東の訛り、好きだった。