ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅。

ネブラスカっていう地名に思い入れがある。
ネブラスカ、大きなアメリカの東西からもも南北からも、ほぼ中ほどにある。だから、東のニューヨークからも西のロスやサンフランシスコからも最も離れている。田舎であるに違いない。もちろん行ったことはない。
40年近く前になる。ラスベガスへ行った。ホテルのカジノのブラックジャックの台で、ほどほどに負けた。もちろんレートの低いテーブルであるが。で、カジノのバーで飲んでいた。と、横で飲んでいたオヤジが、「お前、ネブラスカから来たのか?」って声をかけてきた。
ネブラスカってアメリカの州のひとつであることぐらいは知っていた。しかし、そこにどうして私のような典型的なモンゴリアンがいるんだ。「ネブラスカにオレのような人間がいるのか?」、と訊き返した。と、そのオヤジ、「いる」、と言うんだ。
その後のことだが、ネブラスカには、アメリカ先住民の幾つもの種族が住んでいたらしい、ということを知った。
それ以来、ネブラスカのことが気にかかっている。ずいぶんド田舎であるだろう、と思いつつ。
つい先日も、ツイッターの創業者のひとり・エヴァン・ウィリアムズが、ネブラスカの出身であることを知った(ニック・ビルトン著『ツイッター創業物語』 2014年 日本経済新聞社刊)。
エヴァン・ウィリアムズ、1997年、ネブラスカ州の人口374人のクラークスと言う名のド田舎の町からサンフランシスコへ出てくる。<安物のだぶだぶのジーンズに、大きすぎるTシャツという格好で、・・・・・>、と。
知れば知るほど、ネブラスカってド田舎。でも、気にかかる。

『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』、この春のアカデミー賞の作品賞、監督賞、主演男優賞、助演女優賞、脚本賞、撮影賞にノミネートされた。
カンヌでは、大酒飲みで頑固者のジイさんに扮したブルース・ダーンが最優秀主演男優賞を受賞している。

監督は、アレクサンダー・ペイン。
ごく普通の人々の人生、あーそうだよな、と届けてくれる。

モンタナ州(中西部の州である)のビリングズという町に住むジイさん、こういう手紙を受け取る。
”モンタナ州のウディ・グラント様 我々は貴殿に100万ドルをお支払い致します”、という。一目で怪しい。息子のデイビッドは、そんなの詐欺だよ、と言う。しかし、その手紙を受け取ったウディというジイさん、ネブラスカ州リンカーンまで歩いてでも受け取りにいくという。大酒飲みで頑固者のジイさんは。
で、ジイさんひとりで行かせるワケにはいかない息子、父親であるジイさんを車に乗せ、モンタナからネブラスカまでへの旅をする。
ロードムービーである。
ジイさんが生まれ育った町も出てくる。親類縁者、100万ドル当たったのなら、オレにもどうこう、なんてことも言って来る。そういうこともあるのだが、基本は、ジイさんと息子のふたつの心をつなぐ旅である。

忘れちゃいけない。この映画、モノクロなんだ。つまり、白と黒のみ。

アカデミーの主要賞にノミネートされていたが、いずれの賞も取れなかった。
しかし、白黒映像で父と息子の心の軌跡、ハートウォーミングな物語を紡いでいる。素晴らしい作である。