瞬時の判断。

晴れ。
一人は、脈がない、おそらく死んだ。あと一人も、、死にそうだ、動けない。自分が引っ張り下ろすことも、不可能だ。救助は、いつ来るか分からない。オレは、どうするべきか。
残るべきか、下りるべきか、選択肢は二つ。おそらくその時、片山右京は、瞬時に判断した、と思う。オレが下りて、救助隊をつれて来るべきだと。
それまで、十分逡巡していた。今日夜半、午前1時前、同行者のテントが吹き飛ばされ、200メートル下に落ちているのを見つけた時の、最初の携帯での通報から、夜が明けるまでの間、ズッと。二つに一つほど、決断の難しいものはない。だが、おそらく、片山右京は、最終判断は、瞬時に決めた、と思う。下りよう、との。
普通の人がやるスポーツでありながら、その究極は、ほんの僅かな人間にしかできないものがある。
今の時季なら、スキーのダウンヒル(滑降)などがそうであろう。20数度の壁であるのに、その場に立つと、断崖絶壁の上に立っているような感じに襲われる。恐い。それがダウンヒルは、30数度の壁を、時速150キロのスピードで、滑り降りる。恐い以前に、瞬時の判断力が求められる。
車の運転もそう。車は、誰でもが運転しているが、その究極のF1レースは、最高時速300数十キロで駆け抜ける。一瞬の判断ミスが、命取りにつながる。誰にでも、できるものではない。だから、観ていて面白い。
片山右京は、そのF1の世界で6年間戦った。体の小さな男だったが、度胸満点の男だった。中嶋悟、鈴木亜久里、懐かしいF1レーサーはいるが、右京も懐かしい。中嶋や亜久里に較べて、いや、日本人としても小さい体ながら、外国の著名レーサーと戦っていた。表彰台に上がることはなかったが、右京のドライビングは、私たちを興奮させてくれた。瞬時の判断力があったればこそ、生き延びた世界であったろう。
2007年、F1を引退したあとは、ル・マン24時間やパリ・ダカにも参戦したが、登山にも情熱を賭けていた。7大陸最高峰登頂プロジェクトを進行していた。
今まで、キリマンジャロ(アフリカ)、エルブルス(ヨーロッパ)、マッキンレー(北米)、3大陸の最高峰は、登頂をなした。アジアのエベレストには、頂上直下100メートルで、悪天候の為断念、引きかえしたそうだが、今回は、南極大陸の最高峰登頂を目指し、その初期順応の為の、富士登山とのこと。
しかし、無茶は無茶、だと思う。だが、その最終判断は、正しかったと思う。
片山右京の公式ブログを見ると、今週初め13日には、30度以上の中、ハワイのホノルル・マラソンを走っている。日本へ帰ったのは、おそらく15日であろう。その日のブログもある。ハワイでのことが書いてある。
そして、17日の午前4時に富士山に行っている。すぐあと南極へ行き、その最高峰へ登る為の初期順応のトレーニングの為。
しかし、何日か前には、気温プラス30度の世界にいて、その何日か後には、マイナス30度の世界にいる。それでこそ、冒険家なんだ。改めて、そうも思う。
それにしても、右京の判断、私は、正しいと思う。先ほどのニュースの中で、冬季の富士登山数十回という人が、片山さんの判断は、正しいと思う、と話していた。
私も、そう思う。
考えに考え、思いに思い、最後には、瞬時に決断したであろう片山右京の判断、正しい。私は、そう思う。
明日以降、右京の判断について、どうこう言うヤツは、大勢いるだろうが、そんなことは、間違いだ。右京の判断こそ正しい。そう思う。