斬、。

「一本の刀を過剰に見つめ、なぜ斬らねばならないかに悩む若者を撮りたいと思っていた」、と塚本晋也は語っている。今の世の中、何かキナ臭い匂いがする、と言う。2018年の作品だが、2年後の現在も変わらないだろう。
塚本晋也は前作、大岡昇平原作の『野火』では戦争のむごさを映像化した。ギラギラとした極彩色で。塚本晋也初の時代劇である本作も、その延長線上にあると言える。
おかしな方向へ流れる時代に抗う塚本晋也の世界。
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<なぜ人は 人を 斬るのか>。
『斬、』の主人公である都筑杢之進は、剣の腕は立つのだが、なかなか人を斬ることができない。人を斬ったこともない。
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『斬、』、監督・脚本・撮影・編集・出演・製作、すべて塚本晋也。塚本晋也の完全オリジナル作品である。
主役は、池松壮亮と蒼井優という芸達者。
『斬、』、2018年の第75回ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に正式出品されたが、最高賞の金獅子賞は逃した。この時、金獅子賞を取ったのは、暫らく前に記したアルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』であった。
なお、この年2018年(平成30年)度の第69回芸術選奨文部科学大臣賞の映画部門で、黒澤和子と共に受賞している。塚本晋也は「『斬、』の成果」で、黒澤和子は「『万引き家族』の衣装デザイナーとして」が、それぞれの受賞理由。
文科大臣のこの賞、さまざまな部門がある。古典芸能からさまざまに。この年の受賞者、知らない人が多い。私が見知った名は、文学部門の吉田修一、美術部門の小沢創、大衆芸能部門の笑福亭鶴瓶と竹内まりや、さらに新人賞として宇多田ヒカル。
蒼井優が演劇部門の新人賞をうけている。なるほど。
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江戸時代末期の江戸近郷の農村での物語。
浪人の都筑杢之進は、農家を手伝い生きている。村を出て行きたい若い男・市助に剣を教えている。市助の姉にゆうという娘がいる。澤村次郎左衛門という剣の達人が現れる。
市助に剣を教える杢之進の腕を見た澤村は、動乱の京へ行かないかと誘う。幕末の京都、殺し殺されの時代である。
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杢之進(池松壮亮)とゆう(蒼井優)。
浪人とはいえ侍は侍。身分違い。近づきたいけど、近づけない。
それにしても現在、池松壮亮と蒼井優の二人、飛びぬけて生臭さを感じる役者である。特に池松壮亮、性の匂いがふんぷん。
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澤村(扮するのは塚本晋也)、杢之進を誘う。「その剣を動乱の京で活かせ」、と。しかし、杢之進の心は踏み切れない。
杢之進、何故に人を斬るのかと抗う。
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額に剣を突きつけられても。
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乱暴者の集団が村を襲い、ゆうも凌辱を受ける。
その狼藉者の集団を切り殺したのは澤村であった。
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ゆう。
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板の隙間から杢之進の指が差しこまれる。
ゆうはその指を口に含み、ゆっくりと愛撫する。官能表現極まれり。
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昨日の『散り椿』の木村大作は、時代劇の様式美、美しい殺陣を撮りたいと考えていた。が、『斬、』の塚本晋也は、様式美などにはこだわらない。暴力に抗う時代劇を目指していたのかもしれない。
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それにしてもタイトルの『斬、』の「、」・テン(読点)はどういうことか。
「。」マル(句点)でなく、「、」テンとは。
マルは、それで完結だ。しかし、テンは後に続く。キナ臭い時代に抗う戦いはまだまだ続けていくぞ、という塚本晋也の挑戦状であろう。


過去最大級の台風が来ている。
沖縄を通り、夜10時半には九州の西方を北上している。
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風速45メートル、最大風速60メートル。
豪雨、河川の氾濫、浸水、高潮、さまざまな言葉が飛び交っている。
日本は天災国、改めて思う。

散り椿。

木村大作、「オレの撮りたいように、オレのアングルで、オレのカメラワークで美しい時代劇を創りたい」、と思っていたことだろう。
黒澤明から絶大な信頼を得ていたカメラマンである。多くの監督と組んできた。オレならば、ということで創った作品である。オレの時代劇。
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岡田准一という殺陣の上手い役者が出てきた。
岡田准一をメーンに西島秀俊、黒木華、麻生久美子、そして得もいえぬ若手・池松壮亮の役者陣。さらに石橋蓮司、富司純子、奥田瑛二といった魅力いっぱいの配役。
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『散り椿』、原作:葉室麟、脚本:小泉堯史、監督・撮影:木村大作。
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享保15年(1730)の冬、瓜生新兵衛(扮するのは岡田准一)は京から扇野藩への道を進む。
雪が降っている。
突然、3人の刺客に襲われるが、新兵衛、切って捨てる。
木村大作、この場面を撮りたかったのであろう。雪が降りしきる中での殺陣、岡田准一、見事。
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新兵衛と女房の篠。
命の残り少ない篠の言葉で、新兵衛は扇野藩へ戻る。
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榊原采女を訪ねる。
共に扇野藩四天王と言われた剣使い。
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この間合い・・・
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この間合い。
木村大作の狙い。
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新兵衛と采女。
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采女の母親である榊原滋野、「そなたを夫の仇と思っております」、と新兵衛に迫る。富司純子だ。
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雪の中。
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竹林。
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・・・・・。
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岡田准一、殺陣は上手い、目鼻立ちも二枚目として主役を張るのに文句はない。
が、惜しむらくはたっぱが低い。170に満たない。あと10センチ、せめて5センチあればと思う。
それはそれとし、『散り椿』の結末だ。
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瓜生新兵衛と榊原采女、扇野藩の悪の権化、城代家老・石田玄蕃一派がこもる神社へ討ち入る。
石田玄蕃に扮するのは「悪なら任せろ」という奥田瑛二。憎たらしい。
采女は矢で打ち取られるが、新兵衛は玄蕃の手勢をバッタバッタと切り裂いていく。そして、最後に玄蕃を一刀のもとに切り捨てる。
カタルシス全開。

輪違屋糸里 京女たちの幕末。

幕末の京都、殺し殺されの修羅場が続いていた。
朝廷も幕府も、尊王攘夷だ、いや公武合体だとその時々の情勢次第で身をひるがえす。いつの時代も、上つ方はこのようなもの。殺し殺されは末端の人たちがやっていた。
慶応3年(1867)11月15日、京都河原町通蛸薬師下ルの近江屋で、坂本龍馬と中岡慎太郎が暗殺された。
今もって絶大な人気を誇る勤王の志士・坂本龍馬を襲ったのは、京都見廻組。幕臣で構成された幕府側の護衛組織。
尊皇、勤皇の立場で殺された坂本龍馬とともに、その真逆、戊辰戦争、鳥羽伏見の戦いから函館まで、幕府に忠誠を尽くした新選組の土方歳三の人気も高い。函館の五稜郭には土方歳三の彫像がある。流山市立博物館には土方歳三の大きな写真がある。共に美男子。女子に人気は、そこにもある。
それはそれとし、同じ幕府側の用心棒的役回りであっても京都見廻り組は武士の組織であるが、新選組はそのほとんどが農民の出。近藤勇も土方歳三も元はと言えば日野の農民。それが兵士求むという募集に応じて江戸から壬生屯所に入った。少し乱暴に言えば「傭兵」だ。
実は初期の新選組内でもゴタゴタがある。初期の新選組の局長は二人いた。芹沢鴨と近藤勇。芹沢鴨は元々武士の出、対して近藤勇や土方歳三は農民の出。ある時ぶつかる。
土方歳三たち、芹沢鴨を襲い斬殺する。芹沢鴨の腹心・平山五郎も。
なんだかこんなことを記していては、なかなか〚輪違屋糸里 京女たちの幕末〛に行きつかないな。
端折っちゃおー。
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新選組の土方歳三も、殺される平山五郎も芹沢鴨も、3人が3人共島原の天神、芸妓たちと関係を持っていた。
<京には刀では切れない糸があった>って惹句にあるが、そんな美しいものではない。
明日の命をも知れぬ新選組の若者と島原の花街の女の関係は、生々しいものに違いない。現実にも、そう。
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『輪違屋糸里 京女たちの幕末』、原作:浅田次郎、監督:加島幹也。
原色を多用し、京都島原の艶やかさ、そして哀しさを表わしていく。
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土方歳三(右)は、京都、島原輪違屋の天神・糸里が思いをよせる男。
平山五郎(中央)は、輪違屋の糸里と仲がいい桔梗屋の芸妓・吉栄といい仲。しかし、平山には吉栄を身請けするだけのものはない。
芹沢鴨(左)は、お梅(左上)と深い仲。土方歳三たちに襲われ殺された時も、泥酔しお梅と同衾中であった。
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<男はんの夢のためやったら ・・・ ・・・ 斬られて本望や>、輪違屋糸里(藤野涼子)が新選組の後ろ盾である会津藩主・松平容保にたいして発した啖呵だったか。
明治維新直前、1860年代である。今からわずか150~160年前のこと。
坂本龍馬も、近藤勇も、土方歳三も、その他の皆さんも皆30代の初めで死んでいった。殺し殺され。
命のやり取りのない日常を送り年取ってしまった私、どこか羨望の思いがある。


ところで、「輪違屋」と聞くと久保寺洋子の≪輪違屋≫を思いだす。
久保寺洋子、学生時代のサークル仲間。二科の会友で、毎年100号の油彩「輪違屋」を3点描いている。ここ10年ばかり。
毎年今ごろになると、「今年も二科の季節となりました。・・・」という一筆箋と共に二科展の招待状が送られてくるのだが、今年の二科展は新型コロナで中止になったそうだ。
作家の久保寺も残念であろうが、毎年仲間で久保寺作品の前に集まっていた我々古い仲間も残念だ。

カメラを止めるな!。

最後に日本映画に触れたのは今年の初め、『男はつらいよ50 お帰り寅さん』であった。
その前は樹木希林が死んだ後、一昨年暮れのキネ旬で「樹木希林恐るべし」と銘打った樹木希林出演作を連続上映した時であった。『日日是好日』や『わが母の記』など6作品の連続上映。
邦画も見ている。暫らく日本映画に移る。
一昨年夏から昨年にかけ、その後もあちこちで次々にかかっていたのはこの映画。『カメラを止めるな!』であった。あまりに評判なので見に行った。
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社会現象ともなっていた。ふーんそうなのか、と思っていた。
<この映画は二度はじまる>、という惹句の意味することも、何となく分かっていた。
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『カメラを止めるな!』、監督:上田慎一郎。
それまでまったく知らない名であった。
総予算わずか300万円で作った映画が、昨年末までの興行収入30億円を超えた、ということも聞こえていた。何と、1000倍以上稼いだことになる。凄いどころじゃない。
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冒頭、37分に及ぶ1カット、長回しの場面が現れる。
「ONE CUT OF THE DEAD」。ドタバタのホラー映画を撮っている。役者ばかりでなく、監督もカメラマンもその他の連中も血みどろになりながら。ゾンビも出てくる。
何じゃこりゃー、って思っていた。
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と、<最後まで席を立つな。この映画は二度はじまる>、のパートに入る。
それまでの長回しの1カットは、劇中劇であったということが分かる。ここでも皆さん血まみれになっての熱演。ゾンビも出てくる。
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実は、私には、「カメ止め」という言葉が流行語大賞にノミネートされたり、皆さんがワーワーというそれほどの作品か、という思いがあった。
ところが多くの人が、「凄い凄い」、「面白い面白い」の合唱をしている。
内外の映画祭でも数多くの賞を取っている。
昨年、2019年の第42回日本アカデミー賞では、作品賞、監督賞、脚本賞をあの是枝裕和の『万引き家族』と争っている。結局この主要な賞は是枝裕和に敗れたが、8分門で受賞した。そうか、と思うのみ。
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彼らの3倍前後を生きてきた私、「カメ止め」を理解するには過ぎているのだろう。頭の硬化度合いが。

リトル・ミス・サンシャイン。

しっかりしているのは、ママだけ。あとは問題のある人間ばかり。でもハートフル、家族の愛の物語である。
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『リトル・ミス・サンシャイン』、2006年の作。とても面白い、名作との評があり、見たいと思っていた。つい先日、かかった。
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『リトル・ミス・サンシャイン』、監督は、ジョナサン・デイトンとヴァレリー・ファリス夫妻。すこぶるつきで面白い。
なお、2006年のアカデミー賞には作品賞を含め4部門でノミネートされ、脚本賞(マイケル・アーント)と助演男優賞(アラン・アーキン)が受賞した。
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アメリカ、ニューメキシコ州のアルバカーキに住むフーヴァー家の6人。
娘のオリーヴ(アビゲイル・ブレスリン)は7歳。ポッチャリした体型であるが、子供のミスコンで優勝したいと思っている。繰り上げでカリフォルニアでの大会へも出られることとなる。
パパのリチャード(グレッグ・キニア)は、9段階の何々とかという、負け犬にならない自己啓発プログラムの商品で一山当てようと思っているが、なかなか上手くはいかない。
パイロットを目指すⅠ5歳の息子・ドウェーン(ポール・ダノ)は、ニーチェにかぶれ無言の業を続けている。言葉を発しない。
ママの兄貴(スティーヴ・カレル)は、本人はアメリカで一番のプルースト学者と言っているが、自殺未遂をしたゲイ。ママが病院から引き取ってきた。
おじいちゃん(扮するのはアラン・アーキン)は、エロじじいでその上ヘロインも常習していて、老人ホームを追いだされた困ったじいさん。しかし、孫娘のオリーヴとは仲がいい。
これらの問題ありありの家族を取りまとめているのは、ママのシェリル(トニ・コレット)。
カリフォルニアで行われる子供のミスコン・「リトル・ミス・サンシャイン」に参加するためアルバカーキを出発する。
飛行機で行く金はない。で、ポンコツのフォルクスワーゲンのミニバスに乗りこんで。
本作、ロードムービーでもある。いや、面白い。
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一家6人、ファミレスのような所に入る。オリーヴはママに「予算は幾ら?」と訊く。「1人4ドル以内」とママ。
ひとり1食4ドル以内。なかなか厳しいが、フーヴァー家の6人、旅を続ける。
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しかし、ポンコツのフォルクスワーゲンのミニバス、クラッチが壊れる。駆け押しでエンジンをかけ、次々に飛び乗る。
車の駆け押し、何時の頃からかまったく見なくなったが、昔、5、60年前には私もやった。そこそこスピードが出たところでクラッチを踏みギアを入れる。懐かしい。
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パイロットを目指し無言の業を続けていたドウェーン、色弱だと分かり発狂する。それを見守る家族。
オリーヴがドウェーンを立ち直らせる。
実は、おじいちゃんが旅の途中で突然死んだ。ヘロインの過剰摂取の模様。家族はおじいちゃんの遺体をシーツに包み病院から運び出し、ミニバスに積んでカリフォルニアを目指す。
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何のかのがある。
やっと辿り着いたカリフォルニアの「リトル・ミス・サンシャイン」の会場でも。
家族が一丸となってオリーヴを盛りあげる。
家族の愛の物語。
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観に行った。
面白かった。素晴らしかった。


ところでニューメキシコ州、ディープサウス。共和党の金城湯池である。
フーヴァー家の皆さんも愛すべき一家であるが、ひょっとしてトランプに票を投じているのかもしれないな、ということが頭をかすめる。底辺に生きるアメリカの白人、何とも分かりづらいところがあるので。


夕刻、菅義偉が自民党総裁選への出馬会見を行った。
秋田のいちご農家の長男。高校を出たあと東京へ。工員になったが、2年後法政大学へ。政治家秘書から地方議員へ。・・・。・・・。自らの越し方を長く話していた。
地盤も看板もなく一歩一歩昇ってきた、と。
安倍や麻生のようなボンボンとは違い、たたき上げだということを縷縷。
これは案外、見ている人の心を掴んだのじゃないか。
勝負は既についているのであるが、この会見、岸田文雄や石破茂の抽象的な物言いに較べ分かりやすい。
菅義偉、好きな男ではないが、そう思う。

冬時間のパリ。

同じ男と女が、17年もの間中国大陸のあっちからこっちへと、離れたりくっついたりしているなんて、「お前たちなにやってんだ」ってことになるだろう、パリの男と女には。
切なく流離う恋もそれはそれで得も言えずであるが、パリの男と女の恋は軽やかだ。
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<パリの出版業界を舞台に、本、人生、愛をテーマに描く、迷える大人たちのラブストーリー>、と惹句にある。
が、本が売れるかどうか、出版の行く末には迷っているが、こと愛に関しては、パリの彼ら、彼女らはまったく迷ってなんかいない。
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『冬時間のパリ』、監督:オリヴィエ・アサイヤス。
<人生は 一冊の本に 似ている>、か。
冬のパリ。時の流れとともに変わりゆく、二組の夫婦の愛の行方なんであるが、もちろん夫婦の愛ではない。パリなんだからそれと共にある愛である。日本語で言えば不倫の愛。
洒落たというか、軽やかな会話が飛び交う。
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登場人物、このような間柄。
小説家であるレオナールの妻である政治家秘書のヴァレリーだけが、不倫関係の愛人がいない。が、どうもこれにはウラがあるようだ。
フランス人は政治好きでもある。政治家秘書のヴァレリーは、男よりも政治の方が面白いらしい、と思われる。
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敏腕編集者であるアラン、電子書籍の時代にどう対処しようか、と考える。順応しないといけない、と。
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アランの友人であり、ビジネスでの関係もあるレオナールは、自らの不倫体験をテーマにした私小説を書いているが、アランからは彼の作風はもう古臭いな、と思われている。
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アラン(ギョーム・カネ)とセレナの夫婦。
セレナに扮するのはジュリエット・ビノシュ。
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セレナと6年越しの不倫相手であるレオナール(ヴァンサン・マケーニュ)。
セレナはレオナールに対し、あまり私のことをあからさまに書かないでよ、と迫る。「あれじゃ私だって分かっちゃうじゃないの」、と。
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レオナール、女房のヴァレリーに「オレ不倫してるんだよ」と言うが、女房のヴァレリーは「そんなこと分かってるわよ。あなたの小説を読めば」、と応えている。
驚くことではない。軽やかである。パリだから。
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アランの不倫相手であるロールには、アラン以外にも愛人がいる。フットワークが軽いというか何というか。
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冬時間のパリの街中を歩くアランとレオナール。
パリだ。
「互いの関係に新たな意義を見出し、受け入れ合う夫婦を語りたいと思った」、とオリヴィエ・アサイヤスは語っている。
確かに皆さん、受け入れ合っている。


自民党の各派閥、菅義偉に傾れを打っている。
菅義偉のしたたかさに岸田文雄や石破茂は完敗したも同然。岸田文雄や石破茂に憐れみを覚えるほどに。

帰れない二人。

中国は、良くも悪くも(後者の方が圧倒的に多いが)大きく動いている。
2001年、山西省の大同、チャオとヤクザ者の恋人・ビンの物語。恋物語ではあるが、激動の現代中国の中でヤクザなはぐれ者の哀しい男と女の物語。
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大同、奉節、ウルムチ、そして大同へ。広い中国大陸を移ろって行く。2001年から2017年にかけての長い年月。
この間、中国は大きく動いていた。
2000年、東部沿岸地域に比べ遅れていた西部大開発プロジェクトが始まる。
2001年、2008年のオリンピック開催地が北京に決まる。
同年、WTO(世界貿易機関)に加盟。
2006年、青蔵鉄道開通。
2008年、北京オリンピック開催。
2009年、世界最大の三峡ダム完成。
2010年、上海万博開催。
2015年、2022年の冬季オリンピック開催地が北京に決定。
2010年には、GDPが日本を抜きアメリカに次ぐ世界2位となる。その後もどんどん伸ばし、今やそのGDPは日本の3倍近くとなっている。
経済大国となるにつれ、覇権主義が目につくようになった。特に2012年に習近平がトップとなって以来。今や習近平核心体制となった。習近平が終身、死ぬまでトップを率いるという体制。アメリカと対峙する軍事強国を目指している。
少し横道に逸れたが、そのような激動の時代の中国で、男と女は離れたり引かれたり。世の中が激しく動いているからこそ、その底で蠢くはぐれ者の恋物語は心に沁みる。
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『帰れない二人』監督:ジャ・ジャンクー。
「帰れない」って、大同へ帰れないってことなんだ。17年間も。
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この二人がいい。得も言えずいい。
ヤクザ者のビンに扮するリャオ・ファン。チャオに扮するチャオ・タオ。
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2001年の大同。ディスコでは「Y.M.C.A.」が流れている。日本ではその20年ぐらい前に西城秀樹が歌っていた曲。
そう、この頃はまだ、中國は日本の20年ほど後を走っていた。それが急激に伸び、追いこしていった。
中国へは、チベットやウイグルの問題があり、「もう行くものか」と思い行かなくなった。最後に行ったのは北京オリンピックの前年の2007年であった。北京の街中工事だらけであった。それ以前、2~3年に一度中国へ行っていたが、行く度に中国の状況は激変していた。
2001年の大同で、ヤクザ者のビンはチンピラの集団に絡まれ袋叩きになる。チャオはピストルを撃ちビンを救う。が、チャオは服役へ。
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大同のチャオ。
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5年後、チャオはビンを探す。長江沿いの奉節へ。
奉節、三峡ダムに近い町。
しかし、ビンには新しい女がいた。その女には「人の心は移ろうものよ」、と言われ、ビンには「オレは変わってしまった」、と言われる。
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切ない。
ウルムチ行きの列車に乗る。ウルムチでは仕事があるって聞いて。新疆ウイグル自治区のウルムチ、大都会である。時代は2017年となっている。
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2017年、二人は大同へ帰っている。
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大同、奉節、ウルムチ、そして大同へ。7000キロ余の流離い、移ろいである。
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チャオ、身体を痛めたビンを支える。
習近平の覇権主義が続く中、このような切ない恋物語もある。今の中国。