お栄。

映画は見るが、テレビではドキュメンタリーは見るがドラマはほとんど見ない。が、今日は見た。お栄の物語であったから。
NHKのドラマ、「眩(くらら)〜北斎の娘〜」。「天才絵師の陰にはもうひとりの天才お栄がいた」、とのサブタイトルがついている。お栄に宮崎あおい、葛飾北斎に長塚京三、渓斎栄泉に松田龍平、他に麿赤児、余貴美子、野田秀樹と芸達者。
2年近く前、杉浦日向子の原作をアニメ化した『百日紅』が封切られた。若い頃のお栄を扱っていた。それと重なっていることも多い。『百日紅』も面白かったが、今日のNHK「眩」も面白かった。
今日の「眩」では、若いころから年取ったころのお栄まで。

初めのうちはドラマに引きいれられていた。写真を撮ろうかなどとは考えなかった。その内、北斎の「富士越之龍図」が出てきた。
「富士越之龍図」、ずいぶん昔、信州小布施の北斎館で見て以来、私の最も好きな北斎の肉筆画である。昨年末、両国国技館の近くに開館したすみだ北斎美術館の開館記念展にも、小布施の北斎館から借り出して展示されていた。画狂老人北斎の死の数か月前に描かれた絶筆。小さな作品であるが、霊峰・富士を越える龍、北斎自身を語るよう。
オッ、写真に撮らなきゃと思いカメラを引きだすも、画面からは「富士越之龍」は、既に飛び去っていた。
しかたがない。

しばらくすると、ドラマの中のお栄である宮崎あおい、このようなところまで老けていた。
すみだ北斎美術館に、晩年の北斎とお栄が散らかった部屋の中にいる等身大の人形がある。今年初め以来行っていないが、今でもあるはずである。宮崎あおいの老け具合、その老けたお栄に似ている。

お栄、筆を動かしている。

お栄、すなわち葛飾応為筆≪吉原格子先之図≫。
光りの当たっているところと影。光と影。葛飾応為であるお栄、父・葛飾北斎の影を担っていたようでもある。

1時間を超すドラマであった。
北斎とお栄の。そして、お栄の。

両国橋であろうか、お栄が歩き、向こうからは子供たちが駆けてくる。魚を商う棒手振りも通りすぎる。
考えてみれば、これは19世紀前半の江戸。今から200年弱前の模様。
この200年たらずでの変化、驚く、やはり。