「新」と言えるか、この北斎展。

ロスコが好きだとか、ジム・ダインが好きだとか、等伯が好きだとか、若冲が好きだとか、好きな絵描きというものはさまざまいるが、北斎だけは好きだどうだということを超越した絵描きである。好きどうこうというより、凄い絵描きという存在である。
レンブラントやピカソに比肩しうる唯一の日本の絵描きである、と記したこともある。
さまざまな北斎展が催されている。北斎バカであるので、これはというものは見に行く。
ここ何年かで印象に残っているのは、一昨年・2017年秋、大阪のアベノハルカス美術館での大英博物館との共同プロジェクト。「北斎 富士を超えて」というタイトルであったが、ブリティッシュミュージアムとのコラボというわりにはイマイチ、というものであった。
2016年末には、両国の国技館の近くにすみだ北斎美術館がオープンした。両国、北斎の生まれ在所である。その杮落としとなった開館記念展のタイトルは、「北斎の帰還」であった。気合の入った素晴らしいものであった。
2014年秋には、上野の森美術館でボストン美術館の北斎コレクション展が催された。それはそれであったが、という印象が残る。
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春先、六本木で地下鉄を降り六本木ヒルズ森タワーの方へ歩く。ここ特有の斜めになった柱に貼られたポスター。
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ここにも。
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新北斎展。森タワー52階、森アーツセンターギャラリーで。
「新」とは。
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森アーツセンターギャラリー、ウィークデーは夜10時まで開いている。が、会期末近くのこの日はチケット売り場ものろのろ。
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52階、展望台に行く人の方が多いが、「新」北斎展はここから。
<果てしない北斎ワールドにようこそ>、との惹句もある。どのような北斎ワールドなのか。
約480件の大規模な展示である。北斎研究の第一人者と言われる故・永田生慈コレクションから選りすぐりの作品を持ってきた、と謳っている。
北斎の画業をデビュー時の「春朗期」から「宗理期」、読本挿絵へ傾注した「葛飾北斎期」、「北斎漫画」の「戴斗期」、「富嶽三十六景」など北斎を象徴する「為一期」、そして「画狂老人卍期」まで6章に亘って展示されている。
その内、既視感があることに気がついた。
2年半前、両国のすみだ北斎美術館の杮落としの模様と何となく感じが似ている、と。
「北斎の帰還」と銘打たれたすみだ北斎美術館の杮落としは、やはり北斎の画業を7つに分けて追っていた。引っ越し魔・北斎の住まいの復元なども含めて。もちろん、お栄・応為についても。きめ細かく盛りだくさんであった。
今回の森アーツセンターギャラリーでの新北斎展、両国、すみだの北斎展に及ばないよ。これで「新」と言えるのか。
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「浪裏の富士」も「北斎漫画」も出ているが、それはそう。
上は、≪かな手本忠臣蔵≫。小判10枚。
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≪鯉亀図≫。紙本1幅。
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≪向日葵図≫(部分)。紙本1幅。
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会場途中にこういうものがあった。
これは写真を撮ってもいい、と記されている。
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なんじゃこれと思ったら、こういうものだそうである。
しかしよく見ると、この元の作品は前期に展示されたもの。後期には出ていない。それをそのまま使っている。いいのであろうか、そういうことで。
主催には日経やNHKが名を連ねている。こんな認識で「新」北斎展などと謳うなど、片腹痛い。どこが「新」なんだ。
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この風呂屋の暖簾を跳ねあげる様など面白いし・・・
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2階のこのような様子も、趣きあるなーではあるが。
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≪弘法大師修法図≫。紙本1幅。
天地150cm、左右240cm。<これぞ北斎ワールド、最大級の肉筆画>、とパンフにある。確かにあちこちにヒューチャーされている「新北斎展」の目玉である。
が、私にはただデカいだけじゃないか、と思える。
北斎の肉筆画を思う。信州、小布施の北斎館にある≪富士越龍図≫を。大きな作品ではないが素晴らしい作品である。北斎の絶筆。
小布施で見るのが最もいいが、六本木で見てもこれはいい。


新北斎展、どこが「新」かってものであったが、ひとつだけ出色のものがあった。音声ガイドである。
ナビゲーター・貫地谷しほりに、語りとして神田松之丞が加わっていた。
神田松之丞の語りが素晴らしい。ここ数年の美術展、音声ガイドのあるものはすべて聞いているが、この展覧会の神田松之丞の語りは出色、飛びきりであった。
時折りイスに座って、スペシャルトラックの神田松之丞による講談「四谷怪談」のダイジェストを聞いていた。何度も、何度も。素晴らしいものであった。