京都・洛西苔めぐり(11) 鈴虫寺。

竹の寺・地蔵院を出た後、またバス停の所へ戻ってきた。
まだお昼前だが腹が減ってきた。目の前に食堂というか茶屋というか店が二軒並んでいる。その一軒に入った。「とろろそばがお薦めです」、と言う。それを頼んだ。冷やしでなく、熱い方を。美味かった。そう言えば前日の夕刻も、化野念仏寺からの戻り道でとろろうどんを食ったな、と思う。前日のうどん屋には客が一人もいなかったが、このバス停前の店にはそこそこ人が入っていた。しかも、ほとんどの人がとろろそばを食べていた。この店の名物らしい。
3、40分休んで店を出た。
この終点のバス停の周りには、半径2、300メートルほどの間にお寺が3つある。苔寺、地蔵院、そしてあとひとつは鈴虫寺。

鈴虫寺が一番近い。
バス停から2、3分でここへ来る。

石段を上ると、こういう看板がある。
鈴虫寺、正式名称は華厳禅寺であるが、鈴虫寺の名で知られる。
先代の住職が28年の歳月をかけ、一年中、常に鈴虫の鳴く音の絶えることのない飼育に成功したそうだ。故に、鈴虫寺となった。

山門をくぐり・・・

そのすぐ先の受付へ。
すぐに広い部屋へと導かれる。長い机がズラッと並んでおり、私が訪れた時には数十人の人が座っていた。机の上にはお茶と和菓子が乗っている。
既に、お坊さんの話は始まっていた。鈴虫説法、と称されるもののようだが、軽いノリで所どころで笑いを取る。来ている人たちは若い人が多い。この鈴虫説法、面白いって、若い人たちに人気があるらしい。日常の中での仏さまとの付き合いといったこともあった、と思う。その内、お守りとかお札の話になっていく。説法、法話ではあろうが、私にはビジネストークのようにも思えた。
部屋の中には鈴虫の鳴き声がこれでもか、と響いている。
大きな木製の虫かごが7つか8つ前の方に置いてある。後で傍に寄って覗いたら、黒っぽい鈴虫が一つの虫かごにおそらく数百匹、ゴソゴソと動いていた。それらの鈴虫が一斉に鳴いている。
鈴虫説法が終わり部屋を出ると、そこには幸運御守やお札が並べられている。若い人たち、多くの人がそこに群がっていく。
鈴虫寺、合格、開運、良縁、そのようなことごとに効き目があるそうだ。だから、若い人たちが多く来ている。はっきり言えば、マーケティング手法を上手く取り入れている、と言えよう。
午前中に訪れた苔寺は、完全予約制で合理的な客捌きをしていたが、それはそれ自然であった。竹の寺・地蔵院に至っては、境内で会った人も2、3人しかおらず、マーケティングなんてことを考えることさえ頭にない。
それに比べ、鈴虫寺のこのビジネス感覚は。

私は早々に室外へ出た。

ここも洛西、竹林もある。

苔模様も。

御守やお札の世界より、緑の世界の方がいい。

木の間を通し下を見る。

バス停へと下りる。
前を行く若い男、合格祈願か良縁祈願か。




おまけにひとつ。
鈴虫寺から下りてきたバス停の所に、怪しげなものがある。

これである。
「かぐや姫竹御殿」と書かれている。
竹細工師の男が、20数年の歳月をかけて、竹を用いて造ったものだそうだ。
私が訪れた日はウィークデーであったので閉まっていたが、土日と祝日は開いて良縁を求める子女の願いを聞き届けているらしい。
それにしても、この建物の風情、怪しく、妖しい。