別れ。

先月末、瀬戸内の直島にいる時カミさんから連絡があった。
昔から旅に出る折りには、泊まる予定の分かっているホテルの電話番号を残していく。また、携帯も持っていく。しかし、この何十年、カミさんから旅先へ電話があったことはなかった。自分の亭主はもともとフラフラしている人間なのでという思いもあろう、多少何があろうと旅先へ電話などかかってこなかった。
が、先月末、旅先へ電話がかかってきた。
電話の向こう、涙声である。「ボンドが死んだ」、と言う。
「今朝、起きたら死んでいた」、と言う。「急死した」、と言う。
ぐったりとしたボンドを発見後、すぐかかりつけの医者に連れて行った、と言う。が、既に死亡していた。
「昨日もいつも通りに散歩に行った。変わりはなかった」。「ご飯も普通に食べた」。「寝る前も普通だった」。「それが」、と。「鳴き声ひとつたてず死んでいた」、と。電話の向こうのカミさんの涙にまみれた声、いつまでも続く。
カミさんにとってボンドは、娘が結婚して出ていって以来、子供であった。犬のボンドも、カミさんのことを母親だと思っていた。
ボンドは、2008年6月18日生まれ。フレンチブルドッグのオス。毛色は、ブリンドル。
わが家に来たのは、生まれてすぐの夏前であったか。小さな犬であった。
犬の寿命は短い。特に改良されたフレンチブルドッグ、小型犬ではあるが寿命の短い大型犬と同じ短い寿命だ、とも言われる。フレンチブルドッグ、飛行機に搭乗を許されない3つの犬種のひとつらしい。改良の結果、気管支が弱いそうだ。7歳9か月のボンド、人間でいえば60歳前後であるようだ。それにして、も若い。
実は私、この1、2年、ボンドとオレ、どちらが早いかな、と思っていた。客観的に言って人間でいえば60歳程度とまだ若いボンドが先に逝った。
ボンドとの別れ、悲しい。
カミさん、「暑くなってきたので、明日、火葬する」、と言う。「娘一家と共に行うので、あなたは予定通りの旅を続けろ」、と。

4月1日夜遅く、帰ってきた。
ボンド、ボンちゃんが遊んでいたぬいぐるみ、そのままになっていた。
人間と同じじゃないか、と思われる骨壺もある。
カミさん、娘一家と共にボンドの骨を拾ったそうだ。
骨壺のふたを開けると、ボンドの頭蓋骨が目に入る。まさにボンドの頭と同じ輪郭をしている。骨になったボンド。
医者の死亡診断書によると、死亡要因は「急性出血性胃腸炎」である。
「苦しむことなくの突然死であったのでしょう」、との医者の言葉であったそうだ。よかった。
それはともあれ、ボンドが私より早く逝った。
ボンドが3歳になった頃だろうか、わが家に孫娘が出現した。その後は、ボンドと孫娘のツーショットが増える。

孫娘生まれてすぐの頃。
孫娘は座卓の上、ボンドは下のカーペットの上。

ボンド、なにかヘンな奴が来たな、と思っていたであろう。

孫娘生まれて3か月後。
この家の爺さんと婆さん、今まではオレが中心だったのだが、何やら分からないがこの小さな生き物が気にかかる、と。
しかし、ボンド、この家ではオレの方が兄貴分、オレがお前を守ってやろう、と思っていたのではないか。


ボンド、可愛いがられていた。
枕に顎を乗せたこのポーズ、分かっていただけるかな。

ボンド、孫娘にペロペロとする。
それを防ぐ。

一歳前の孫娘。
ボンドと遊ぶ。

一歳近く、孫娘、ボンドを追っかける。

ボンドと孫娘、なかよく遊ぶ。

このころもそう。

孫娘は2歳近くとなる。
2歳近くとなった人間の女の子、何やら偉そうになっていく。犬のお前より前を行っているのだ、と。犬に対して先輩風を吹かせ始める。

フレンチブルドッグ、小型犬ではあるが、本来はブルドッグの改良種。面貌はいかつい。
この女の子、オレが守る、との思いをこめ。

昨年初め、オレ、ボンドの横で孫娘がピースサインをしている。
生意気にも顔をしかめて。

ボンド、ボンちゃんとの想い出は多い。
思いの外速く別れの時がきた。
飼い犬、ペットである。しかし、それはペットではなくなり、家族となる。
ボンド、ボンちゃんもそうである。ボンちゃんを失って10数日、カミさんのペットロス症候群、やや戻りつつある。
それにしてもボンちゃん、オレより早かったか。




一昨日、G7外相サミット。
広島宣言を。

オバマが広島へ来れるか。難しい政治判断がある。
今もってアメリカの世論、広島、長粼への原爆投下の是非、是とする者、56%をかぞえる。




昨日、新宿ゴールデン街で火事があった。
火事の火元はゴールデン街の先。

私の知る店は、まぬがれた。