河瀬和世展 <和紙・コラージュ>。

隅田川の川面を見、吾妻橋を渡る。数か月ぶり。
アサヒビールのウンチビル(上品な人は、”黄金のオブジェビル”と言うらしい)のすぐ裏、ギャラリー・アビアントへ。

和紙の作家・河瀬和世の展覧会。
冬は去りつつある。が、夕刻6時すぎ、はやほの暗い。

ギャラリー内へ入る。

右側の褐色に見える衣装の女性が、作家・河瀬和世。

まずここに目がいった。
右端の家のようなものに。

これ。

《町家》。
手染め和紙(墨)、マレーシア紙(墨)。
昨年秋、作家・河瀬和世は奈良の古い町並み・五條新町でのアートフェアへ参加した。奈良の古い町家でのインスタレーションの模様、その後送っていただいた写真を、この正月紹介した。
この”町家”、その時の奈良・五條新町の町家からインスパイアされたものであろう。時代、時間を感じる。

その前には、小さな作品がある。
鉄の把手や鍵穴がある板の上に乗っているものもある。おそらく古い箪笥の部材なんだ。
らしい。
小さな作品は、木っ端である。木っ端に和紙を貼りつけた、という。幾重にも。和紙を通し、年輪が見える。血管にも見まがうような。

河瀬さん、小さな作品を手に取りこう言う。
「ひっくり返したり、立てたりしてください。他のものになりますから、トリさんがサカナさんになったり」とか、と。「どうか手に取って動かしてください」、と。
河瀬さんの和紙作品、見るものの参加を促すものも多い。銀座・奥野ビルで初めて会った折り、どうぞこの紙に触ってください、と言われたことを思い出す。

この作品も気になった。
《積層》。
手染め和紙(墨)。
近づこう。まず左の方へ。

鋭い。

右の方へ。深い。
黒から白へ。河瀬さんの基軸・紙と神を思わせる。

作家・河瀬和世が昨秋、奈良・五條新町の町家で作った紙と神。この作品も。
昨年末、河瀬さんから五條新町でのこの作品の写真を送っていただいた時、まず頭に浮かんだのは神の”依り代”。
紙による神の依り代、そうに違いない。

《層のはざま》。
手染め和紙(墨・染料)。

近づく。

この壁面。

《忘れ物》。
手染め和紙(墨・染料)。染められた和紙が主張する。

上は、《ちいさな家(パリ郊外)》。下は、《裏通り(マレ)》。
なんとも言えぬパリ。マレ地区の街並み。
いずれも手染め和紙(墨)、染め杉皮紙(墨)。

「裏側もあるのですよ}、といって河瀬さん《裏通り(マレ)》をひっくり返す。
と、これが現れる。小さな家。
上のパリ郊外の小さな家の裏にも作品を作った、と河瀬さんは言い、ひっくり返す。
また、共に新しい作品が。

和紙による別世界が作られている。

来ていた人たちの間で、書の話になった。
と、河瀬さん、裏の方から巻物を取り出し床に広げた。
その巻物の冒頭の部分。

巻物は続く。
河瀬さん、字ではない、と言う。コラージュなのだそうだ。紙を切り貼りつけたそうだ。
不思議な作品である。

巻物の末尾。
最後の行、”KAZ”と読める。和世のカズであろう。ここのみ字を描いた、切り抜いたのではないか。そう思われる。

この壁面を見てみよう。

《かわら》。
手染め和紙(墨・染料)、和紙額制作。
きれいに、美しくなんてことには心を寄せない。

《空へ》。
手染め和紙(染料)、和紙額制作。
赤い染料、額にもついている。堪らなくいい。

額の左下、ここにも赤く”KAZ”という字ではないか、な。

《紅梅(小)》。
手染め和紙(墨・染料)。近づこう。

{美は乱調にあり」という言葉を思う。
このさま、まさに、「美は乱調にあり」である。
まだ瀬戸内晴美のころの瀬戸内寂聴の作品『美は乱調にあり』、伊藤野枝の物語。この「美は乱調にあり」、元はと言えば大杉栄の「美は諧調にあらず、ただ乱調にあり」、という言葉であると思っていた。が、どうも昨今ではそうではないらしいが。
それはともかく、河瀬和世の作品世界、予定調和の世界などとは無関係。「美は乱調にあり」である。それでこそ面白い。

帰り際、これをいただいた。お礼として、と。
一片5センチに満たない和紙で折られた矩形のもの。小さな椿の葉が挟まっている。
白い和紙に濃緑の椿の葉。
趣き深い。
今週末6日まで。


帰り際、これをもらった。
「ドイツから戻って来たTEGAMI5年目展」のチラシ。

2011年の大震災後、ドイツの人々からの支援に対し、日本の現状を伝える作品をドイツに送ったそうだ。日本のアーティストたちが。河瀬和世さんも参加したそうだ。
ドイツに送った作品はこの5年間ドイツ国内を巡回されたそうだが、今回日本へ戻ってくる、という。
今月9日から20日にかけ、浜松市の鴨江アートセンターで催される。
東海地方にお住まいの方、また、大震災に寄り添っておられる方、ぜひどうぞ。


米大統領選、スーパーチューズデー、結局ヒラリーとトランプの闘いになる模様。
これからの世界、ひどいことになるな、こんなことでは。