グローリー 明日への行進。

マーティン・ルーサー・キングJr.が暗殺されてから50年近くなる。1965年、アメリカ南部アラバマ州セルマでの3月7日の「血の日曜日事件」、その2週間後の大行進、それから丁度50年にあたる。
今年の3月7日、アメリカ初の黒人大統領・バラク・オバマ、アラバマ州セルマの地で「行進はまだ終わっていない」、と演説している。つい先日も、若い白人の人種差別論者が銃を乱射、9人の黒人を殺している。
終わらない。アメリカの宿痾と言ってもいいだろう。

『グローリー 明日への行進』、マーティン・ルーサー・キングJr.、キング牧師を取りあげた初の長編映画。まず、そのことに驚く。権利関係など理由はあるらしいが。
アメリカ公民権運動の指導者・キング牧師、1964年にノーベル平和賞を受賞している。この映画は、その頃から翌1965年のセルマでのことごとに焦点を絞って作られている。キング牧師の一代記ではない。65年前後の人間・キング牧師に焦点を絞る。
監督、製作総指揮は、1972年生まれのエヴァ・デュヴァネイ。気鋭の黒人女性監督である。
エヴァ・デュヴァネイ、こう語る。
「実際に起こった出来事や、その場にいた人々の真実を語ることに全力を尽くした」、と。ドキュメンタリーではないが、ドキュメントを積み重ねている。
時のアメリカ大統領は、JFKが暗殺された後、副大統領から大統領に昇格したリンドン・ジョンソンだ。前年、ノーベル賞を受賞しているマーティン・ルーサー・キングJr.、大統領とも面会できる。キング牧師、ジョンソンに人種差別撤廃、黒人の選挙への参加を迫る。しかし、リンドン・ジョンソン、キング牧師にこう言う。
「キミの問題は一つだろうが、私には101もある」、と。第36代アメリカ大統領リンドン・ジョンソン、引き延ばしにかかるんだ。テキサスの大男は。ジョンソン、ついには投票権法に署名するのだが。

『グローリー 明日への行進』、キング牧師に扮するのはデヴィッド・オイェロウォ、夫人のコレッタ・キングにはカーメン・イジョゴ、リンドン・ジョンソンにはトム・ウィルキンソン。
あとひとり、忘れてはいけない男がいる。
ティム・ロスが扮したアラバマ州知事・ジョージ・ウォレスである。
ジョージ・ウォレスの名を知るのは、今では、おそらく60代以上の人であろう。ジョージ・ウォレス、とんでもない人種差別、人種隔離論者であった。50年前、人類の歴史から言えば”ついこの間”、と言ってもいい時。その”ついこの間”に、このようなとんでもない悪人がいた。
もちろん映画でも、ジョージ・ウォレスはその実像と同じく、ワルとして描かれる。

FBIはキング牧師のすべてを監視している。厖大なファイルが残されている。監督のエヴァ・デュヴァネイ、そのFBIの監視記録を基に脚本を書いた。
キング牧師の演説として最も知られる「I have a dream」は、出てこない。権利関係を避けた故。

1965年3月7日、アラバマ州セルマでの600人の行進、白人警官から棍棒や鞭で殴られ打たれ、多くの血が流された。「血の日曜日事件」である。その様は、ニュースとして全米のテレビに流された。7000万
の人が戦慄した。
その2週間後、キング牧師が呼びかけたセルマでの行進には、2万5000人の人が集まった。黒人ばかりじゃなく白人も。クリスチャンばかりじゃなくギリシャ正教、ユダヤ教、その他の宗教の聖職者たちも。
アメリカ南部アラバマ州セルマのエドマンド・ペスタ橋。マーティン・ルーサー・キングJr.、キング牧師に率いられた大行進、警官隊が引き、成功裏に行進を終えた。

50年前のセルマ大行進に参加した著名人。
サミー・デイヴィスJr.、ハリー・ベラフォンテ、白人のピーター・ポール&マリー、ジョーン・バエズ、ジューイッシュのレナード・バーンスタインまで参加している。
黙ってなんかいられなかったんだ、きっと。
ところで、本作の主題歌「GLORY」が素晴らしい。
COMMON & John Legend(コモン&ジョン・レジェンド)によるもの。本年度のアカデミー賞歌曲賞を受賞した。
ゴスペルっぽい調べとラップのコラボ。絶妙の味わいである。
   ONE DAY
   WHEN THE GLORY COMES
   IT WILL BE OURS  IT WILL BE OURS
   ONE DAY
   WHEN THE WAR IS WON
   WE WILL BE SURE  WE WILL BE SURE
   GLORY GLORY GLORY GLORY 
   ・・・・・
   ・・・・・ 


鶴見俊輔が死んだ。
不思議なことに、小田実のことを思い出した。ベ平蓮だ。
国に異を唱えていた。
そう言えば、昨日夕刻、松戸の駅前に10数人のジジババがいた。ビラを配り、普天間云々とかオスプレイ云々と言っている。「アベ政治を 許さない」、という紙を持っている人もいる。ウヌッ、澤地久枝が金子兜太へ依頼したものじゃないか。

「それ、金子兜太が書いたものですね」、と訊いた。「そうです」、との答え。「写真撮ってもいいですか」、と訊いた。「どうぞ、いくらでも」、との答え。
元気印のジイさんであった。