フォックスキャッチャー。

冒頭、キツネ狩りの実写映像が流れる。アメリカの大金持ち、イギリス貴族の真似をしたがるものらしい。
すぐ、「これは実録であります」といういう文字が流れる。
1996年1月26日、アメリカを代表する巨大財閥デュポンの御曹司ジョン・デュポンが、レスリングのオリンピック金メダリスト・デイヴ・シュルツを射殺した。一体どういうことなんだ、全米を震撼とさせた。
この作品、それまでのジョン・デュポンと、共にレスリングのオリンピック・チャンプであるシュルツ兄弟との物語。トゥルー・ストーリーである。

『フォックスキャッチャー』、監督は、4年前の『マネーボール』のベネット・ミラー。
第67回カンヌ国際映画祭の監督賞をとり、本年度の第87回アカデミー賞にも監督賞、主演男優賞、助演男優賞など5部門でノミネートされた。
チーム・フォックスキャッチャーの、ロゴが入ったユニフォームを着ている3人の男。
中央は、「チーム フォックスキャッチャー」のオーナーであるジョン・デュポン。扮するのは、スティーヴ・カレル。怪演。左は、1884年のロス・オリンピック、レスリングの金メダリスト・マーク・シュルツ。扮するは、チャニング・テイタム。右は、マークの兄でやはりオリンピックの金メダリスト・デイヴ・シュルツ。扮するのは、マーク・ラファロ。

『フォックスキャッチャー』、デュポン財閥の御曹司による、オリンピックチャンプの殺害に至る様を追った物語であるが、幾つかのテーマを考えることができる。
まずは、金の問題。
実は、レスリングのオリンピック・チャンピオン、金メダルを取っても、生活は厳しい。さほどの収入はないんだ。そこへ、デュポンの御曹司が破格の条件でオレのところへ来い、と呼びかける。ロス五輪の金メダリスト・マーク・シュルツはジョン・デュポンの許に行く。
次いで、どうもエロスの問題もある。
デュポンの御曹司・ジョン・デュポン、切手収集家であり、鳥類学者でもあるのだが、アマチュアレスラーでもある。広大な農場の中に、レスリングの凄い練習場も持っている。そこで、ジョン・デュポンとマーク・シュルツ組みあう。お互いの肉体を絡める。もちろん、オリンピックのチャンプと勝負なんていうものではない。しかし、身の周りに女性の影がないデュポンの御曹司、ジョン・デュポン、汗ばんだ肌と肌との絡み、男色と見ることもできよう。
レスリングと言っても、アマレスとプロレスの関係にも思いは至る。
厳しいんだ。
ハッキリ言って、プロレスをバカにしている。堕落だ、と断じている。
確かに、アマレスの世界、それはもう厳しい世界である。相撲で言えば申し合いにあたろうか、柔道で言えば乱取りにあたろうか、双方のレスラーが乱取りをする場面がある。組みあう度、双方の肉体の骨が軋みあう音が聴こえるようであった。
肉体の軋み、脚色されたプロレスと異なるアマレスの凄み、骨の音で感じられる。

デュポンの御曹司を演じたスティーヴ・カレル。
常にそっくりかえっている。さほど喋らないが、脳天から出てくるような声。
愛国者なんだ。自らの施設、フォックスキャチャーをアメリカナショナルチームの練習場になんてことまで考ええいる。
それにしても今年のアカデミー賞。主演男優賞が面白かった。ノミネートされたのは、次の5人。
『アメリカン・スナイパー』のネイビーシールズ隊員クリス・カイルを演じた、ブラッドリー・クーパー。
『バードマン あるいは(無色がもたらす予期せぬ奇跡』のマイケル・キートン。
『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』のアラン・チューリングに扮したベネディクト・カンバーバッチ。
『博士と彼女のセオリー』でホーキング博士に扮したエディ・レッドメイン。
『フォックスキャッチャー』のデュポンの御曹司ジョン・デュポンに扮したスティーブ・カレル。
結局受賞したのは、『博士と彼女のセオリー』でホーキング博士を演じたエディ・レッドメインであった。が、この5人の争そい、とても興味深いものであった。
ホーキング博士とバードマンはまだ健在であるようであるが、『アメリカン・スナイパー』のクリス・カイルは殺され、『イミテーション・ゲーム』のアラン・チューリングは自死し、『フォックスキャッチャー』のジョン・デュポンは殺人を犯し、刑務所の中で死んだ、というような面々であるから。

シュルツ兄弟。
左は、弟。右は、兄。

レスリング、男同士の世界。
ジョン・デュポンとマーク・シュルツの愛憎も。

ジョン・デュポン、警察官と一緒に拳銃も打っている。腕も相当。敷地内に戦車か装甲車といったものも持ってくる。
で、殺人事件も起こる。
夜半の新宿、人多し。