博士と彼女のセオリー。

アメリカに可愛い天才少年がいれば、イギシスには車椅子に乗った天才がいる。ご存じ車椅子の天才物理学者・ホーキング博士である。

1942年生まれのスティーヴン・ホーキング、オックスフォードから大学院はケンブリッジへ進む。1963年、ケンブリッジでのパーティーでアートを学ぶジェーンと出会う。共に真面目な学生だ。恋に落ちる。
ところが、ホーキング、ALSを発症、余命2年との宣告を受ける。ホーキング、ジェーンとの関係を断とうとする。しかし、ジェーンは、ホーキングを支える、共に歩く、と言うんだ。今日が最後でも後悔しない、と。2人は結婚をする。
余命2年と言われた時間は5年、10年、と過ぎていく。子供も次々と生まれる。理論物理学者としてのホーキングの名声も上がっていく。
病状は進むが、死はこない。ジェーンは支える。

『博士と彼女のセオリー』、監督は、ジェームズ・マーシュ。
スティーヴン・ホーキングにはエディ・レッドメイン、ジェーンにはフェリシティ・ジョーンズが扮する。
本作、本年度アカデミー賞の作品賞、主演男優賞、主演女優賞にノミネートされた。エディ・レッドメインが主演男優賞を受賞した。

スティーヴン・ホーキングとジェーン、ケンブリッジのパーティーで知り合い・・・

ALSを発症、余命2年と知りながら結婚し・・・

子供も生まれる。
この作品『博士と彼女のセオリー』、<生きる希望をつないだのは、無限の愛>とか<ヒューマン・ラブストーリーだ>、とかといった言葉で語られている。
そうではある。でも、そうばかりではない。そこが面白いんだ。
ホーキングの病状が進む。ジェーンは懸命に支える。子育てもある。ジェーン、疲れてくる。当然だ。母親から、教会の合唱隊に入れば、と言われる。
教会へ行き、合唱隊のリーダーと会う。ジョナサンという名のその男、女房を失くした一人者。子供の面倒も見てくれるし、ホーキングの面倒も見てくれる。いいヤツなんだ。ホーキング自身もジョナサンを頼る。
しかし、こういう関係って、どこかどうーってことになるよ。そうなんだ。誰しもがそう思っているようになっていく。ジェーンとジョナサンの間が。
子供たちをつれジェーンとジョナサンがキャンプに行った時などは、一瞬、やはりってこともあった。
結局、ジョナサン、身を引く。互いに惹かれあいながら。
それだけじゃない。この作品、私にはとても面白かった。特に三つ。
まず、ケンブリッジでの学生のパーティーの場。
さすが英国、さすがケンブリッジ、と思った。日本ではあり得ない。学生のパーティーに燕尾服を着ているんだから。驚きだ。
次いでは、ジョナサンを受け入れることである。
一人者でいい男のジョナサンを、夫婦の間に引き入れる。どうこうなるってこと目に見えてるよ。それを敢えてやるってこと。ホーキングの懐の深さかな。
実は、この作品の面白さは、後日談があることなんだ。
エンドロールにこういう言葉が流れた。
スティーヴン・ホーキングとジェーンはその後別れ、ジェーンはジョナサンと結婚した、と。スティーヴン・ホーキングも看護師と再婚している。皆さん、アグレッシヴだよ。
あとひとつ興味を引いたのは、ボルドーだったかへ行ったホーキングが危篤状態に陥った場。
医者から見て、先はない。で、医者はジェーンにこう言う。「この管を外しましょうか」、と。ところがジェーンは「外さないでくれ」と叫ぶ。私は、不思議な感を持った。日本尊厳死協会の会員である私、生命維持のみの延命処置など御免蒙りたい、と思っている故。
ジェーンの判断は間違っていなかったようだ。スティーヴン・ホーキングは、まだ健在であるから。