レ・ミゼラブル。

パンをたった一つ盗んだだけで、19年もの間投獄されていたジャン・バルジャン。仮出獄となるが、世間の目は冷たい。
ただ一人、食事と宿を与えてくれたミリエル司教をも裏切る。銀の燭台を盗んで去る。すぐに捕まったジャン・バルジャンを連れてきたお巡りに、ミリエル司教はこう言う。「この燭台は、彼にあげたものです」、と。「だから、彼を釈放しなさい」、と。放たれたジャン・バルジャンに、司教は銀の燭台を持たせる。
ジャン・バルジャン、初めて、人の温かな心を知る。よく知られたジャン・バルジャンの物語である。
「レ・ミゼラブル」、1815年のここから始まる。
8年後の1823年、名を変えたジャン・バルジャン、モントルイユで工場経営者となっている。市長でもある。しかし、追われる身でもある。仮出獄後も逃走を続けるジャン・バルジャンを、頑なに法を守るという男、ジャベール警部が追う。
ジャン・バルジャンの工場をクビになった後、身を持ち崩したファンテーヌの物語がある。ファンテーヌの子、コゼットを必ず引き取って守る、という物語も。そのコゼットと共和派の若者、マリウスとの恋物語も。
「レ・ミゼラブル」、大叙事詩である。さまざまな物語が重なりあって進む。

スタンディーというらしいが、このようなものが映画館に現れたのは、いつの頃からかな。
シネコンでの映画に限るが、封切りの2か月近く前から1か月前ぐらいまで設置されている。これは、ひと月少し前。もちろん、興行収入を多くあげられるであろう映画に限られることではあるが。少し前には、「007 スカイフォール」のこれがあった。

監督は、トム・フーバー。「英国王のスピーチ」でアカデミー監督賞を取った男。
原作は、もちろんヴィクトル・ユゴー。それをミュージカル化したものの映画化である。だから、ほとんどの台詞は歌。
キャストは、ジャン・バルジャンにヒュー・ジャックマン、彼を追うジャベール警部にラッセル・クロウ、薄幸のファンテーヌにアン・ハサウェイ。
ミュージカルの映画化である。演じる役者、皆歌う。すべて、演じつつ歌ったそうだ。それが、上手い。
幸薄いファンテーヌに扮するアン・ハサウェイが歌う「夢やぶれて」。帝政に対し反旗を翻すマリウスたちが歌う「民衆の歌」。中でも、最も涙腺を刺激するのは、サマンサ・バークス扮するエポニーヌが歌う「オン・マイ・オウン(On my own)」。
エポニーヌ、話せば長いので、話しはしないが、ワキのワキ。でも、この詠唱、心に沁みる。涙が止まらない。

「レ・ミゼラブル」、1815年からジャン・バルジャンが死ぬ1833年までの物語である。多くの物語が重なり合う。その基本となるなるテーマは、愛。

フランスという国、面白い国である。1789年、革命を起こした。絶対王政を倒した。フランス革命だ。
しかし、その後、共和制と王政(帝政)を繰り返すんだ。ないまぜにして。
この模様、恐らく、1830年の7月革命の映像ではないか、と思われる。「民衆の歌」が聴こえてきそうだ。