53年後の男と女。

山田洋二は、50年後の『男はつらいよ』の寅さんを作ったが、クロード・ルルーシュは、あの『男と女』の53年後の物語を作った。アンヌとジャン・ルイの恋物語を。
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10日ほど前、封切られた。その日の新聞広告。
<”愛の伝道師”クロード・ルルーシュ監督が紡ぐ忘れられないあの物語が、長い時を経て・・・>とあり、<この冬、極上の愛の物語を劇場で>、とある。
劇場へ行った。
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『男と女』、1966年の作。クロード・ルルーシュ、まだ20代であった。
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53年前の男と女、ノルマンディーのドーヴィルで出会う。
共に連れ合いを亡くしている。アヌーク・エーメが扮するアンヌは、スタントマンの亭主を事故で。自身は映画のスクリプター。ジャン=ルイ・トランティニャンが扮するジャン・ルイは、レーシングドライバー。モテ男である。
アンヌは娘を、ジャン・ルイは息子をドーヴィルの寄宿制の学蛟へ入れている。そして、ある時・・・であるが、53年前の物語である。
それにしても53年前のアヌーク・エーメ、いい女であった。遥か離れた極東の島国の若造なぞ、遥かに仰ぎ見る存在、美であった。
なお、<人生最良の日々>とは、「最良の日々は、この先の人生に訪れる」というヴィクトル・ユーゴーの言葉から取ったそうだ。
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『男はつらいよ』の主人公である寅さんの渥美清は死んでしまった。だから山田洋二は、50年を経てあのような作品を作った。横尾忠則がオレのアイデアをパクったと言っているコラージュを。よくできている。面白かった。
が、『男と女』の主人公であるアンヌのアヌーク・エーメもジャン・ルイのジャン=ルイ・トランティニャンも未だ健在である。アヌーク・エーメ87歳、ジャン=ルイ・トランティニャン89歳であるが。
自らも80代に入ったクロード・ルルーシュ、この80代後半90に近い二人に、また運命の恋をさせようとしているんだ。
フランシス・レイのあの”シャバダバダ、シャバダバダ、・・・、・・・”の忘れられない曲をバックに。
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あの時から53年後、レーシングドライバーで女にモテたジャン・ルイは老人施設に入っている。記憶、意識が混濁するようになっている。ただ、アンヌという一人の女性のことだけは鮮明に憶えている。息子はその女性を探し出し、父親に会ってほしいと頼む。
アンヌはそのことを受け入れる。60近い娘や孫娘の前で53年前のことを明らかにするのも、いかにもフランスらしい。
施設にジャン・ルイを訪ねたアンヌに、ジャン・ルイは新入りの人って言う。アンヌのことが解らない。が、アンヌの声が忘れられない人の声に似ている、と言う。髪をかき上げる仕種も、と。
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昔、レースでイタリアに行った時に関係を持った女の娘も。こんな美人の娘がいるなんて嬉しいよ、とジャン・ルイ。ジャン・ルイ自身、「オレはレーサーで顔もよかったから女はいくらでも寄ってきた」、と話している。
ジャン・ルイの夢の中も出てくる。早朝のパリの町中、凱旋門からオベリスク、オペラ座、・・・、・・・、とシトロエン2cVを走らせるアンヌとジャン・ルイ。
夢か現か。
シャバダバダ、シャバダバダのスキャットばかりでなく、フランシス・レイの音楽、愛の物語を盛りあげる。
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ドーヴィルの海岸、アンヌの娘のフランソワーズとジャン・ルイの息子のアントワーヌが。
53年前のドーヴィル。
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53年前、『男と女』はカンヌ国際映画祭でパルムドールを取った。
53年後の『男と女 人生最良の日々』は、昨年5月の第72回カンヌ国際映画祭に出品された。その際のクロード・ルルーシュ、アヌーク・エーメ、ジャン=ルイ・トランティニャン、その他の関係者たち。
監督と主演の二人、皆さま80代、慶賀なことこの上ない。