初期のジャズ。

平岡正明も、マイク・モラスキーも、ジャズもんだし、小川隆夫は、専門家だし、石原慎太郎も、中上健次も、村上龍も、平野啓一郎も、大江健三郎も、今まで触れてきたもの書き、皆、ジャズ好きだ。
しかし、世の中には、”ああ、この人は、本当に、ジャズが好きなんだなー”、と思われる人がいる。
鎌田善浩著『ジャズ事始』(2000年、文芸社刊)という本がある。
四六版、ハードカバーだが、本文は、100ページちょっとしかない。本体価格、1100円だが、紀伊国屋でも、ジュンク堂でも手に入らない。入荷不能。今、ネットのオークションでは、中古本が、8000円となっている。
今日、近所の学校へ行ったので、そこの図書館から借りてきた。
鎌田善浩さん、70歳を越えているが、中学時代からのジャズ好きで、初期のジャズから現代のものまで、あらゆるものが好きなんだ、という。この書は、書名の通り、初期のジャズについて記している。ニューオーリンズ・ジャズのことを。
まず、小泉八雲となる前のラフカディオ・ハーンが、新聞記者として、ニューオーリンズにいた時代から始めている。1877年から1887年の間だ。ラフカディオ・ハーン、ジャズ誕生直前の、ニューオーリンズの黒人音楽のことを、さまざま記事にしているそうだ。
<船上で、夜毎口ずさまれる歌は、奴隷だった頃の歌で、アフリカ民族特有の憂愁を含んだ、野生的な歌である>、とか、<メロディは低い音で、哀愁を帯びており、出港や入港の際に、黒人水夫らが一斉に口ずさむと、しみじみと心にしみてきて、一種独特の甘美な哀感が漂う>、といったようなことを。
しかし、この書で、鎌田善浩が述べていることは、”初代ジャズ王”と彼が記す、バディ・ボールデンと、彼と共演した、バンク・ジョンソンのことである。
バディ・ボールデン、1877年、ニューオーリンズの生れ、コルネット奏者だ。鎌田、こう書いている。
<一人の黒人コルネット奏者バディ・ボールデンが、新しい音楽を町中で演奏し、町中を沸かせていました。この音楽はブルージーで、シンコペートされたリズムにのせ、メロディを即興でフェイクするものでした。この音楽がジャズの始まりだったんです>、と。
バディ・ボールデンの活動期は、1893年から1907年の間。死ぬのは、1931年だが、その間、精神病院に入っていた、という。バディ・ボールデンの演奏は、録音されていない。しかし、彼の演奏をした曲を、その後、多くのミュージシャンが演奏している。その代表は、「タイガー・ラグ」だ。
”You Tube”は、とても便利な媒体だ。神戸海保の航海長が、尖閣ビデオを流すこともできるが、古いジャズを聴くこともできる。私は、今、You Tubeで、さまざまな「タイガー・ラグ」を聴いていた。
1932年の、ルイ・アームストロングの「タイガー・ラグ」。1931年の、ミルスブラザーズの「タイガー・ラグ」。1936年の、ニック・ラファロの「タイガー・ラグ」。録音年は解からぬが、おそらく、30年代の、アート・テイタムの「タイガー・ラグ」。1935年の、中野忠晴の「タイガー・ラグ」も聴いた。
それぞれ、持ち味が出ていて、面白い。ついでに、サッチモとダニー・ケイのかけ合いの、「聖者の行進」も聴いた。ダニー・ケイ、途中でポケットチーフで、サッチモ風に、しきりに口を拭ったりしていた。国会では、「何故、神戸から」なんてことをやっているが、私は、古い「タイガー・ラグ」を聴いている。
バンク・ジョンソンも、コルネット、トランペット奏者だ。1879年生れだから、バディ・ボールデンよりふたつ下。1895年には、バディ・ボールデンのバンドに加わっている。やはり、ジャズの誕生期に生きた。しかし、1933年、アクシデントがあり、表舞台から消える。だがしかし、1940年代のニューオーリンズ・リヴァイヴァルで、復活する。
1944年の、何曲かを、聴いた。「Sister Kate」、「Lonesome Road」、「See See Rider」。「See See Rider」がいい。
バンク・ジョンソンのトランペットに、トロンボーン、クラリネット、それに、バンジョー、リズムとして、ドラムズ。
トランペットに、トロンボーン、クラリネット、のブラス3管。それにバンジョーが加わり、リズムは、ドラムズ。ニューオーリンズ・ジャズの、ディキシーの、必要最低限の構成だ。
しかし、これで、今の人にも、最大効果を発揮できる。ジャズ嚆矢の、楽しさを感じる。