年代(2) 40代・・・味。

10日ほど前の昼すぎ、テレビをつけると、女性歌手が歌っていた。引いた映像。
脚の長い小さな椅子に座り、俯きかげんで歌っている。中森明菜だということ、すぐ解かった。
新聞の番組表を見ると、「中森明菜、44歳の今」、となっている。1時間半か2時間ぐらいの長い番組。ウィークデーの昼間にこんな番組なんてあり得ないから、再放送だ。既に半分以上は過ぎていた。だんだん解かってきたが、1年ほど前に放映したものの再放送。

中森明菜が、スターであったことも、アイドルであったことも、ツッパッた言動で人気があったことも、知っている。しかし、いい歌だとも、いい女だとも、思わなかった。何しろ年代が違うのだから、私とは。その彼女が44歳とは、驚いた。

暫く観ていると、なかなかいい。パープルのロングスカートに、両肩の出たグレーの長めのシャツ。ネックレスというより、肩から数珠のような長いものを懸けている。
シンプルで、味がある。

歌もよかった。井上陽水や伊勢正三、中島みゆきの歌をカバーしたもの。世評の高い中島みゆきの歌は、さほど好きではないが、陽水や伊勢正三は好き。
それを40代の中森明菜が歌う。とても味がある。けだるくもあり、しっとりとした味もあり。
40代、どの世界でもそうだが、30代までのがむしゃらさを通り越し、味が出てくる年代だ。

NHKのカメラ、グゥーと引いた映像が多く、歌う明菜も俯きかげんでいることが多かった。だが、時にはこういう正面から捉えた映像もあった。
40代の顔だ。
ビリー・ホリデイやエディット・ピアフのことを、憶いだした。

ビリー・ホリデイは、44歳で死んでいる。エディット・ピアフの死は、47歳。
中森明菜、去年44歳なら、今年は45歳。大先達の、記憶に残る名歌手と、ほぼ同じ年。
NHKの映像の中森明菜、味があるな、と思ったが、やはり、味がありすぎる歌を歌い、味のありすぎる人生を送ったこの二人と較べるのは、少し無理。酷である。
それを承知で思うのだが、味のありすぎる破天荒な人生を送り、40代で別れを告げた、ビリー・ホリデイやエディット・ピアフのような人生、中森明菜にはないものか、と。ずっと記憶に残る歌い手になる。中森明菜、そういう資質を持つ、数少ない歌い手のひとりでは、と思うので。

それはともかく、40代半ばになった中森明菜、味がある歌であったし、味のある映像であった。
こんな背後からの映像なんて、味の出た40代の歌い手でなければ、似合わないもの。