異端の鳥。

人間は、自らと異なる異物に対してはこれほどに残虐になれるのか。過激、残虐な映像が次々に現れる。
今年のヴェネツィア国際映画祭では、黒沢清の『スパイの妻』が銀獅子賞(監督賞)を取ったが、昨年のヴェネツィア映画祭の金獅子賞(作品賞)を取ったのはトッド・フィリップスの『ジョーカー』であった。が、その『ジョーカー』を凌ぐショックをヴェネツィアに与えたのは、ヴァーツラフ・マルホウルの『異端の鳥』であったそうだ。
凄まじい作品である。
ヴェネツィアでは、映写が始まった直後からその映像の凄まじさに席を立つ人が多かった、という。しかし、終わった後にはスタンディングオーベイションが10分にわたり続いたそうだ。
多くの評者の評価は、「何と言う傑作」という声ばかり。この作品を傑作と言わずして、映画評論家を名乗ることはできない、という連中ばかり。
谷川俊太郎は、「見終わって私の言葉はしばし仮死状態に陥りました」、と語り、小川洋子は、「邪悪を射抜く少年のまなざしに、魂を奪われ、ただ立ち尽くすしかない」、と記す。
確かに、そう。
第二次世界大戦中、ホロコーストを逃れて逃走した少年、行く先々で彼を異物と見なす人々から、これでもかという仕打ち、迫害を受ける。
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『異端の鳥』、原作はポーランドの作家、イェジー・コシンスキが1965年に発表した作。が、ポーランドでは発禁書となった。異物を排斥する様をこれでもかと描いているんだ。
コシンスキはアメリカへ亡命する。が、その後、コシンスキは60歳で自死を遂げる。
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『異端の鳥』、監督:ヴァーツラフ・マルホウル、チェコ、スロバキア、ウクライナの合作。
『異端の鳥』、原題は”The Painted Bird”、「彩られた鳥」である。
こういう映像が流れる。
ペンキか何かで鳥の羽に彩色し、空に放す。放たれた鳥は仲間たちのもとに飛んでいく。が、仲間の鳥たちから寄ってたかって攻撃され、死んで地表へ落ちる。
羽に色を塗られた鳥は、異物、異端の鳥となったんだ。
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第二次世界大戦中の話だという。しかし、出てくる人々はまるで中世の人。500年前のボスやブリュウゲルの世界である。馬車や荷車が走っている。自動車の影も見えない。
東ヨーロッパであることは分かる。しかし、東欧のどこであるのかということは分からない。ドイツ兵やソ連兵がドイツ語やロシア語を話す。が、出てくる人々が話す言葉は、インタースラヴィックという人工語。
戦火を逃れ彷徨う少年、悪魔祓いの女から「悪魔の子」とされる。首から下を地中に埋められ、カラスの群れから頭をつつかれる。
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黒十字のプロペラ機が飛ぶ。
第二次世界大戦中のことなのか、不思議に思う。
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凄まじい映像が次々に現れる。
ハーケンクロイツのナチスの兵隊が、東ヨーロッパの人たちを次々と射殺している場面、馬に乗ったコサック兵団が、村々を襲い殺戮、凌辱を行なう様。
粉屋のオヤジが自分の女房に色目を使っているとして、その男の両眼をスプーンでえぐり出す。色情狂の女がヤギと交わりその獣姦の様が流れる。
これでもかこれでもかという場面が流れる。
3時間近い長尺。しかもモノクロームである。
8、9年前のハンガリー映画、タル・ベーラの『ニーチェの馬』を思い出す。『ニーチェの馬』も2時間半を超える長尺、モノクロ作品であった。
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唯一、心休まる場面であったであろうか。
少年を銃殺すべきナチスの兵士、少年に顎を動かし逃げろと示し、空に向けて発砲する。
他は悍ましい場面のみ。


菅義偉と小池百合子、合意と称する中途半端なことを成している。
その内、東京の感染者は1日1000人を越え、日本全国でも3、4000人どころか5000人に近づくであろう。
菅と小池という男と女が首相であったり都知事であったりという国民の不幸を、幾重にも蒙っている。
日本国民全員が、菅と小池から。


香港では、周庭が禁固10か月の刑を受けた。何て理不尽な。
アップルデイリーの黎智英も拘束された。
香港はとても魅力的な街であった。が、その街は、死んでしまった。