太秦ライムライト。

昨日は外出しており、帰宅も遅かった。酒を飲んで酔ってもいたが、ブログは書いておこうと思い、うつらうつらとした状態で書き始めた。
今日、見てみると終りの方は1行のみが続いている。”不思議な世界だ”、”モラルの崩壊、・・・”、”ロシアの大地の”、”神々のたそがれ”。短い1行のみ。それで終わっている。早く終わらせて寝よう、と思っていたんだな、きっと。
だから、肝心なことが記されていない。
チラシなどには、名の知られた人たちが「凄い、スゴイ」を連発している。「これを観ずして死ねるか」なんてことを言う人もいる。どこだったか、たしか町田康だったと思うが、「解からなくたっていいんだ。凄いんだ」、といったワケの解からないことを書いている人もいた。ともかく皆さん、「凄い、スゴイ」競争なんだ。
どろどろの泥濘、糞尿まみれ、死人も多い、血も飛ぶ。しかも3時間に及ぶ長尺、ドアップの映像が多い。その映画が、”凄い、スゴイ競争”状態となっている。
で、昨日書き忘れた肝心なこと、お前は「凄い、スゴイ」と思ったのか、ということである。
思わなかった。思えなかった。
オレの頭、立花隆や蓮實重彦、浅田彰、磯崎新などとはその構造が違うのだな、ということは理解できる。それにしても、皆さんが「凄い、スゴイ」という『神々のたそがれ』、正直に言えば、疲れた。
このこと、昨日書き洩らした。


今日の『太秦ライムライト』は、昨年、観たいな、とずっと思っていた作品である。しかし、見逃していた。
今年の初めやっと観た。

『太秦ライムライト』、全国公開に先がけて、京阪神、関西で先行上映されたんだ。太秦の物語だものな。
『太秦ライムライト』、監督は落合賢。その名、ポスターの下の方に小さく記されている。
それよりも、キャストの面々の名前だ。

主演の二人は、福本清三と山本千尋。
であるが、広く知られている名は、うしろの3人であろう。萬田久子、小林稔侍、松方弘樹の。

が、主役はあくまで福本清三。
福本清三、昭和18年生れ。15歳で京都・太秦の東映京都撮影所に入り、時代劇・チャンバラ映画の切られ役一筋で55年。
5万回斬られたそうだ。

真ん中が『太秦ライムライト』の主役・香美山清一に扮する福本清三。
深い皺、痩せこけてアバラも浮き出ている。福本清三、55年に及ぶ大部屋俳優暮らしで、初の主演である。

太秦で撮影されている時代劇『江戸桜風雲録』の主役を張るのは、松方弘樹。松方が扮するのは、尾上清十郎。
尾上清十郎と現実の松方弘樹が重なる。
隣りは萬田久子。太秦撮影所の近くの小料理屋の女将。
萬田久子、美人でもなけりゃ芝居も上手くはない、という役者であった。が、年を取ってから、がぜん存在感を示すようになった。この『太秦ライムライト』の小料理屋の女将とか、クラブのママとかといった役で。ごく自然なんだ、萬田久子の演技。

小林稔侍が扮するのは、松方弘樹扮する尾上清十郎の先代尾上清十郎。
”御大”とか”旦那”と呼ばれている。松方弘樹の親父の近衛十四郎を思わせる。映画の世界と現実の世界、シンクロする。
しかし、チャンバラ・時代劇、映画ばかりじゃなくテレビの番組も打ち切りになる。福本清三の仕事もなくなっていく。
『江戸桜風雲録』の最後の撮影が終わった後、松方弘樹扮する尾上清十郎、福本清三にこう言う。
「また、斬らせてくれ」、と。
虚構の世界と現実の世界、ごちゃ混ぜになってくる。
それが面白い。

メーンの流れ、年寄りの男と若い女の物語である。であるからチャップリンの『ライムライト』を持ってきたのであろう。
福本清三扮する香美山清一、山本千尋扮する若い女にチャンバラを教える。5万回斬られた男として。
しかし、それよりも尾上清十郎に扮した御大・松方弘樹、また先代の尾上清十郎に扮した御大と、福本清三の間柄、さまざまに思い浮かぶ。哀しくも面白い。