美女と野獣。

美男美女って言うけど、美女はさておき美男って誰だろう、と考える。
ずいぶん昔、「柳亭痴楽はいい男。鶴田浩二や錦之助、それよりずうーといい男」、と言っていた噺家がいた。鶴田浩二や錦之助も美男とは言われたが、とびきりの美男ではない。
その少し前あたりであろうか、ジュラール・フィリップが美男と言われていたことがある。しかし、本当の美男ではないな、と思っていた。その暫らく後、やはりフランスに美男が現われた。アラン・ドロンである。
アラン・ドロン、美男の代名詞となった。が、今ひとつ正真正銘の美男というには欠けるものがあった。
では、正真正銘、由緒正しいこれぞ美男はいるのか、という問題となる。その条件はナンなんだ、と。
ひとりだけいる。ジャン・マレーである。
その理由は、ジャン・マレー、ジャン・コクトーの恋人であったから。男がぞっこん惚れこみ恋人とする、そういう男こそ真の美男と言えるのではなかろうか。
ほぼ70年前の1946年、才人ジャン・コクトー、映画『美女と野獣』を撮る。遥か昔に観た憶えがある。
野獣に扮したのはジャン・マレー、ジャン・コクトーの恋人だ。これぞ美男の極み。何故なら、男に愛された男であるから。

新しい『美女と野獣』が創られた。
監督は、クリストフ・ガンズ。

野獣に扮するのは、ヴァンサン・カッセル。
ヴァンサン・カッセル、『ブラック・スワン』、『危険なメソッド』と彫りの深い役回りを演じてきた。美男のイメージとは、ほど遠い。
ジャン・マレーというこれぞ美男、という先達と思いきり方向を変えている。美男対決を避けんがためのヴァンサン・カッセル。
深紅のバラ一輪、効いている。

レア・セドゥ扮するベル。
一輪のバラを手折ったことにより、野獣の城へ行かなければならない父親の身代わりとなり、城へ。

野獣の城の中での二人、美女と野獣。
美しい。

野獣、凶暴なマスクの下に哀しげな面立ちが。